新たなリーダー、新たなチームで挑むV1への道

3部(VチャレンジリーグⅡ)のチャンピオンとして期待と不安の中挑んだ、群馬銀行グリーンウイングスV2の戦いは3位に終わった。プレーオフに当たるファイナル6にも進み、V1昇格を果たしたヴィクトリーナ姫路には3戦2勝と唯一勝ち越すなど強さを見せた。一方で、強さを安定して出すことができず、V1昇格のチャンスを自ら手放してしまった悔しさも残るシーズンだった。それでも、グリーンウイングスの戦いは、リーグの中で大きな存在感を見せていたことは間違いない。

リーグを終え、わずかなオフを経て、グリーンウイングスは新チームへと移行した。

キャプテンの三好紗弥香が引退し、ムードメーカーの濱邊優愛もチームを離れることになった。それでも、主力選手を含め、体制の大枠は継続され、即戦力として期待される大卒の4選手が加入した。新シーズンは、さらになる強さでV2優勝、そして、V1へのチャレンジが期待される。

そして、そんな新シーズンのキャプテンに吉岡みなみ、副キャプテンには、斉藤千佳、古市彩音が選ばれた。3人それぞれに戸惑いも感じながら、さらなるチームの成長、自身の成長のために大役を引き受けた。

新シーズンの正副キャプテンは、先シーズンの様に選手間ではなく、スタッフ間で決められたという。そして、目指すべきものは「石原監督」から「選手」が主体となって進むチームへの変貌だ。

古市彩音にとってキャプテン、副キャプテンの様な役は久々だ。メンバーが少なかった小中学校ではそうした機会もあったが、高校や大学では無縁のポジションだった。「私で大丈夫かなと思いました。」と不安の思いもあったが、「監督から『自分がレベルアップするためにも、何か役について欲しい。』と言われました。」と、決断の理由を教えてくれた。主に、途中出場で流れを変えるセッターとしての役割だった1年目は、「自分のことでいっぱい、いっぱいだった。」と振り返る。なので、副キャプテンになった2年目は、「役をもらえたので、一歩引いて、周りも見ながらプレーしたい。」と、チームのこと、仲間への視野を広げようと努める考えだ。理想の副キャプテンとは何か模索する日々だが、「私は引っ張るタイプではないのでしっかり支えて、でも、引き過ぎずやっていきたいと思う。」と、現段階でのイメージを教えてくれた。チームはV1昇格へのチャレンジが期待されている。目標達成のためには、「意識を高く持たなければいけないし、もっと互いに高めあってやりたい。選手主体でやっていけるよう頑張りたい。」と意欲十分だ。

斉藤千佳も、古市同様、副キャプテンの指名に戸惑いがあった。「高校時代にキャプテンは経験したけど、やはり違うものだし、チームに来て1年も経っていない自分が副キャプテンだなんて、、、」と、葛藤があった。それでも大役を引き受けたのは、チームのために、そして、自らの成長のためにという決意の表れからだ。前所属の熊本では、周りは年上ばかりだったこともあり、気持ちが張った状態が続くことが多かった。グリーンウイングスに来てからは、後輩も多く、雰囲気も変わった。決して、気を抜いたプレーをしたわけではないが、「リーグ後半になって気持ちの甘さ、プレーの甘さが出てしまったのを感じた。」と振り返った。昨シーズン、チームが勝ちきれなかった甘さを斉藤自身が背負い込んでいるようにも感じたが、「副キャプテンをやりながら自分も成長したい。ちゃんとやらないと、ちゃんと言えないですから。」と、自らにも、チームにも甘さを排除し、高みを掴みにいく決意だ。そして、斉藤は、「プレーよりも人の思いを感じ取れるチームにしたい。」と思っている。バレーボールができること、応援してくれる人がいること、支えてくれる人がいることの大事さを伝えていきたいと話す。自身も、チームの廃部を経験した、故郷の熊本は震災被害をうけ、母校の後輩たちがバレーを続けることの大変さにも心を痛めた。「バレー以外もよくなったら、もっと良くなると思うんです。」バレーボールは、技術はもちろんだが、勝負所で大事なのが精神力であり、人間力だ。そうしたものをチームも、斉藤自身も身に着け、これまで以上に強く、変わった姿を見せてもらいたい。

須﨑杏、三好紗弥香と受け継がれた群馬銀行グリーンウイングスのキャプテンのバトンは、吉岡みなみが受け継いだ。吉岡自身、高校、大学とキャプテンを経験しているが、「自分には向いていないと思う。」と、こちらも指名には、後ろ向きな位置から話はスタートした。それでも、「去年とは違うチームを作りたい。」「監督主体でなく、選手自身が主体のチームを作りたい。」というコンセプトにも頷けたし、やはり、自分も成長できるきっかけになると思い、受けることにした。吉岡は、チーム最年長で、リベロというポジション柄、職人肌なイメージもあるが、チーム内では、お茶目ないたずらも交えつつ、後輩たちからも「シンさん、シンさん」と愛される存在だ。本人も、独自カラーを打ち出すことよりも、みんなの声、考えをまとめながら進んでいきたいと考えているようだ。それでも、昨シーズンを上回るために何が必要なのかも考えている。目指すチームの姿は、「対応力をつけること」それと、「もう少し大人になること」だ。昨シーズンを振り帰った時に、「どこかで自分のことになっている。相手や周りを考えられるような対応力が必要だ。」と感じている。これまでは石原監督が、選手たちに落とし込んできたが、ここから上に行くためには、与えられるだけでは強くなれない。「自分たちで厳しいことも言い合いたいし、技術面も求めたい。そして、選手からスタッフにもっと提案できるようにもなりたい。」とこれまで以上のものを求めていこうとしている。V1への道はイバラの道だ。吉岡は、「V1に上がるためには、リーグ戦も大事だが、国体にも出場できるようになければいけないし、大学生にも負けていられない。勝てるチームにしっかり勝たないとリーグでも上には行けない。」と話す。

石原監督が就任以降、6人制チームとしてのベースを作り、若手の育成、 チーム強化に力を注いできた。VCL2での優勝、そして、V2で3位という結果を残した。ゲームプランを遂行し、表現する力はあるが、試合の流れを変える、勝負所をつかみ取る強さ、状況判断などでは、弱さを見せることもあった。周りからの声援、指示は、いくらでも届けられるが、最後は選手自身に委ねられる。そのためには、与えられるのではなく、求めていく選手にならなければいけない。

正副キャプテンに選ばれた3人は、いずれも、献身的なプレーでチームを支える選手だ。重責に、葛藤もあるだろうが、特別な言葉ではなく、彼女たちのひたむきな姿、そして、成長を見せ、さらに魅力的なチームへと導いてもらいたい。