【オリコンニュース】
ミニチュア鮭弁当に施された仕掛け
 SNSでリアルなミニチュアパンを発表し、「本物よりおいしそう」「香りが画面越しに伝わってきそう」などと賞賛され話題となったモデラーのしろくまパン(@jalk_hatch)さん。パン以外にも「にぎり寿司」など、主に食品を中心に作品を制作・発表してきたが、近作では調味料から調理用具、キッチン、さらには家具と発展させ、1人暮らしの部屋を表現。作品の幅を広げた。そんな同氏が食品以外のこれらを制作した理由とは?また、「焼き鮭のり弁当」をはじめとする、これまで発表してきた食品の「ラベル」に隠された秘密とは?

【写真】「焼き鮭のり弁当」の材料までミニチュアで再現…パッケージの精巧さが際立つ作品集

■“既視感”を誘い、実際の商品との違いを楽しむ

――SNSで話題となった“ミニチュアパン”以降も、お弁当やお寿司、さらにお菓子や、調味料など見事な作品を発表されています。

【しろくまパン】ありがとうございます。我が家にあるものは調味料や食材を実際に計測して、ないけど「これは絶対置きたい!」というアイテムは、ネットで調べたり、実際にそれを置いてある店舗に行ってチェックし、制作しております。
 最初はきっちり作ったつもりでも、実際にキッチンに並べてみるとわずかな誤差が違和感として出てきて「あらら?」となることが多々あり、修正しながら制作を日々繰り返しております。

――調味料のラベルや、商品パッケージ、肉のパックの値札などは、「どこかで見たことある」という“既視感”があるものを制作されています。

【しろくまパン】そうですね。「日々のくらし」をテーマにしているので、「食料品や日用品なども見て下さる方が身近に想像しやすいものを」ということで、実際の商品に似せてデザインするようにしています。
 実際の商品との違いを見つけて楽しんでいただく、という要素もありますね。たとえば、「Meijiチョコレート」のパッケージを「Reiwaチョコレート」にしたり、インスタントラーメンの「サッポロ一番」を「ハコダテ一番」にしたり。

――細かく変えているんですね。

【しろくまパン】作者としては、「モノが小さいし、お写真からはきっと見つからないだろうな」とタカをくくっているのですが、見て下さる方は思いのほかそういうところをきっちりとチェックしていて、「ここ、こうなってますね!(笑)」と、伝えて下さいます。こういったプチ間違い探し的な楽しい対話がうまれることも、「既視感があるパッケージ」の醍醐味の一つだな、と思っております。

■これまで発表してきたミニチュア作品すべてにつながる世界観

――近作では、食品だけではなく、調理器具やキッチン、さらに家具を含め、1人暮らしの部屋など、制作の幅を広げているようにお見受けしました。

【しろくまパン】実は、これまで発表してきた食品も含めすべてのミニチュア作品は、「星が丘市」という架空の都市を舞台に制作しており、すべてが紐づいているんです。星が丘市には、駅前に商店街があります。例えば、「焼き鮭のり弁当」などは、この商店街にある「オリジナルキッチン」の商品。商店街の地図も用意しており、商品の値札やラベルには、その地図と対応したデザインのものがわりふられています。1人暮らしの部屋も、星が丘市にある賃貸物件「フォレスト星が丘」の一室です。

――すべてが関連していたんですね!「フォレスト星が丘」にはどんな人が住んでいるイメージで制作を進められたのですか?

【しろくまパン】「仕事を続けており、ある程度経験は積んだけれど、なかなかお給料はあがらない(なのに、雑事や仕事量はすくすく増えている)」「でも、日々のささやかな暮らしの中で、小さな楽しみを見つけたい」「忙しい中でも何かホッと息が抜けるような、温かさや癒やしがほしいという思いを抱いている」「最新のもの、流行のものより、ちょっとレトロテイストなもの、おちつくものの方が好き」「料理が好きで、料理作りがわりと息抜きになる」という人物をモチーフにしています。

――なるほど。部屋の制作で苦労されたところは?

【しろくまパン】最初の設計に相当てこずりました。今回は「日々のくらしの小さな幸せ」をテーマに、時間の変化(窓からの光のさし方など)、季節の移ろいも含めてこまやかに撮影したいと思っておりました。そのため、写真・映像の角度がなるだけ多様にとれるよう、あの家の壁は部屋ごとにある程度動かせるようになっております。本来なら、撮影には間仕切りの壁が少ないワンルームタイプの部屋が適しているのですが、それだとお部屋があまりにもコンパクトにまとまりすぎてしまって、主人公の目指しているくらしの感じがあまりでなくなってしまうんです。
ゆえに、それまで思い描いていた「主人公のくらし」を、どう「フレキシブルに撮影できる間取り」と両立させるか、というところに本当に時間がかかりました。

■“小さなよろこびの循環”ができる商店街を舞台に

――現実では、郊外の大型店に押され、シャッター街になってしまった商店街が多いですが、なぜ、商店街を表現しようと思ったのですか?

【しろくまパン】一言でいうと、「商店街=小さなよろこびの循環場所」として、設定・制作しました。私が昔よく行っていたお店の話なのですが、ある商店街のお魚屋さんに行くと、お年を召したおばあさんが出てきて、「今日の献立は?」と聞いてくれます。「何か焼き魚用の物を探していて」と答えると、「今日はこれとこれがおすすめですよ」と教えてくれます。
 そして、買うものを決め、おばあさんがお魚を包んでくれていると、奥からおもむろにおじいさんがよっこらしょ、と出てきて、「あと、もうちょっと季節がくると、〇〇がずいぶんとおいしくなるからね。それも焼き魚におすすめだよ。来月ごろから入ると思うよ。」と、プチお魚講座を開いてくれます。

――郊外の大型店ではなかなか見かけないコミュニケーションですね。

【しろくまパン】品物を包み終わったおばあさんが、「そう言えば今日は、●●屋で大根が安いから、おろし用にみてみるといいかもしれませんよ」と言ってくれます。その心遣いに感謝しつつ、帰りにそのお店に寄り、確かに安い大根を買って、おろしを作ります。
 家人がかえってきたらできたての焼き魚を出しながら、「今日はこのお魚がおすすめだったよ。で、来月は〇〇が焼き魚にぴったりなんだって。」と、おじいさんから仕入れてきた豆知識を披露しつつ、箸をつけます。そして、こんがりと焼きあがった焼き魚を一口食べると、そのおいしさに思わず頬がほころびます。そうすると、家人の方から「これ、おいしいね。来月は〇〇も、ぜひ食べてみたいね」と。

――現代では珍しくなりましたが、昔ながらの光景ですね。

【しろくまパン】こういった「小さなよろこびの循環」ができるのは、長年たくさんのお家の食卓を支えてきた商店街の方の目利きと経験値、心配りがあってのことだと思います。ですが、「シャッター通り」と言われるくらい商店街が活気をなくしている昨今、このシーンをリアルに体験できることはなかなか少なくなったように感じます。なので、この言葉にはなかなかしがたい温かさをなんとかミニチュアで表現したく、今回「星が丘駅前商店街」を作りました。

――素敵な思いが詰まっているんですね。この「星が丘市」のミニチュア作品は最終的にはどのような形になるのでしょうか?

【しろくまパン】「1つの町そのものをミニチュアで再現し、その暮らしの息遣いを写真で絵本のようにつづる」というところを制作のゴールに据えています。現在作っているお家を完成させたのちは、商店街のお店をどんどん作り、星が丘の町の一部、たとえば川べりや小さな公園であったり、古い図書館の一角であったりなども可能な限り再現していきたいと思っております。なので、今のところの完成度はまだ1割程度、といったところでしょうか。まだまだ先は長いですね(笑)。

――緻密な作業の積み重ねという、長い道のりを乗り切れるモチベーションは?

【しろくまパン】作品を見て、少しでもわくわくしたり、たのしい気持ちになっていただければ、これ以上うれしいことはないな、と思っております。特に、昨今のコロナ禍で暗いニュースが多く、気づかないうちに気持ちがどんよりしてしまうことがあるので、そういった時にこの作品たちがいくばくかでも気持ちをなごませる一助となれればと思っています。

(提供:オリコン)
「焼き鮭のり弁当」制作・写真提供/しろくまパン氏
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