2013年12月25日。
世の中はクリスマス一色。俺はといえば・・・今年も仕事。まーパテシィエ見習いに休みがあるわけなく。クリスマスの恩恵を受けてるといえば受けてるので、文句も言えない・・・。
「終わった。あっ。イテテテ。あーあ。マッサージでも行くかなぁ・・・。」
片付けを終え、時計を見たら時刻は22:30・・・。
「まずい。終電間にあわねーじゃんか!!」
イブもクリスマスも仕事。その上、終電を乗り過ごし、恋人たちの溢れた街中に放り出される・・・まさに地獄絵図!!絶えられるわけもない。毎年これだよ。まさかデジャブ!?いや、ただ単に去年と同じ状況なだけだ。
店を飛び出した俺の行く手を阻む、手をつないだ恋人たち。肩を組んだ恋人たち。初めてのクリスマスを迎える少し距離のある恋人たち。
「すいません。通ります。すいません。通ります。」
そもそも、なんで俺が謝らなきゃいけねんだよ。道をふさいでるのはお前たちだろ。お前たちが謝れ!!なんて言える訳もなく。
言いたいことも言えない。こんな世の中はポイズンだよな。なんとなく反町隆史に共感したりなんかして・・・。
「痛いっ!!」
ものすごい衝撃とともに聞こえた女性の声。やってしまった。隆史に気を取られて前を見てなかった・・・。俺は何をやってるんだ。隆史よりは豊派なのに・・・。ここでビーチボーイズを思い出すか?冬なのに・・・。
「すいません。急いでて・・・。大丈夫ですか?」
「こちらこそ前を見ていなくて、ごめんなさい。」
泣いてる・・・。クリスマスに一人。人の流れを逆らい、泣きながら走っている女の人・・・。フラれたんだ。きっとそうだ。しかも・・・ちょっと可愛い。すごい可愛いでもなく、ちょっとだ。妙にリアルだ・・・。これがすごい可愛いだと、きっと後ろからイケメンが追いかけてきて、彼女の手を掴んで「ちょっ、ちょ待てよ。」って言う。しかし、目の前にいるのは・・・ちょっと可愛い子。俺はこの子を好きになる可能性がある。いや、もう好きになってる。いや、むしろ世界で一番君が好きだ。
昔どっかの胡散臭い恋愛博士の教え子の友達が書いた。ほぼ内容のない恋愛指南書にあった。この状況で優しくすれば、必ず行ける。そっと彼女を起こし、ハンカチを差し出し、「何があったの?俺でよければ話し聞くけど?」彼女とバー。彼氏との喧嘩の話を聞く。「俺だったら君を泣かせなんかしない。好きだよ。」完璧なプラン。ほんの数秒でここまでのプランが俺は恋愛の天才なのか?ジュンイチ石田クラスなのか?てか俺にできるのか?好きと言えるのか・・・。
言えないよ。好きだなんて・・・。わかる。わかるよ。ヒロミ・GO。今なら痛いほどあなたの気持ちがわかります・・・。言えないよ。好きだなんて・・・。
「あの大丈夫・・・ですか?」
「はっ!!はぁー。はい。俺は大丈夫です。すいません。あのこれ。お詫びにどうぞ。っ言っても余り物なんですけど、クリスマスケーキ・・・。いや変な意味じゃなくて・・・俺、パティシエやってて、やってるって言っても見習いなんですけど、店で余ったやつで・・・」
俺は何を言ってるんだ・・・。終わった。ひと冬の恋が終わった。ひと夏の恋はあるのに、ひと冬の恋といわないのはなぜだろう。終わったというか始まってもいないじゃないか。あー。とうとう現実逃避が始まった。もう疲れたよ。パトラッシュ。眠ろう。
「ケーキですか・・・ハンカチじゃなくて・・・。」
「え?なんで?」
「だって、さっきからずっと声でてるから・・・。」
えーーー!!やってしまった・・・。なんて恥ずかしいんだ・・・。日本の恥だ・・・。いや、世界の恥だ・・・。いや、地球の恥だ・・・。宇宙の塵となって消えてしまいたい。
「バーで話・・・聞いてくれないんですか?」
「いいんですか?」
「近くに寿っていうバーがあるんですけど・・・どうですか?」
来たーーーーー!!地球に生まれてよかったーーーーー!!!サンタさん。あんた本当にいるんだな。あんたからのプレゼント、一生大事にするぜ!!
カランコロン
「寿ですか・・・。名前は変だけどいい店ですね。」
「そうでしょ。マスターはちょっと無愛想なんだけどね。」
「いらっしゃい・・・ま・・・せ。」
「マスター。こんばんわ。」
「ミキ・・・。」