松尾由紀子は変わらない

「4戦目でようやく初勝利を飾れたのでうれしいです。」

彼女の試合後の第一声は、いたってシンプルなものだった。正直、もっと、闘志をむき出しにして乗り込んでくるのかと思った。だが、そうではなかった。松尾由紀子という選手は何も変わらない。9人制でも、6人制でも、群馬でも、山形でも。ユニフォームこそ違えど、仲間と勝利をつかむために力を尽くし、大好きなバレーボールに取り組む姿勢は何ひとつ変わらなかった。それがとてもうれしかった。

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松尾は、群馬銀行グリーンウイングスの前身、9人制時代の群馬銀行女子バレーボール部を正セッターとして、キャプテンとして支えた選手だ。チームの伝統を守り続けるとともに、6人制への難しい移行期にも、副キャプテンとして役割を十二分に果たした。だが、グリーンウイングスを離れなければならなくなった彼女はこれで終わらない。8年間在籍したチームに別れを告げ、まだまだバレーがしたい、上手くなりたい、その思いをもって山形酒田に新たな戦いの場を求め、再スタートを切った。

自前の体育館を持ち、バレー部の活動もある程度、優先されるグリーンウイングスの環境とは違い、新天地では制約も多いという。「今までと違い、練習は、午後だけという日がほとんど。恵まれていたんだなと感じます。だけど、限られた時間で集中してバレーもできているし、充実してますよ。」と現在の様子を教えてくれた。

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そして、新シーズンが開幕し、初めての古巣との対戦。「もっと緊張するかと思ったがそうでもなかった。」と笑顔で答えた様に、松尾に気負いはなかった。コート上でも、これまで同様、仲間を鼓舞し、プレーで引っ張り、勝利を求めるいつもの松尾の姿しかなかった。「きょうは、エースも、ミドルも、レフとも、決めて欲しいところで決めてくれた。」と、仲間の活躍を手放しで喜んだ。古巣との対戦という個人的なことよりも、開幕3連敗で、自信を失いかけそうになっていたチームに力を与える今季初勝利をつかめたことが彼女にとって意味のあることだった。

松尾由紀子は、いつでも、どこでも変わらない。仲間とともに、勝利をつかむために、全力でボールに向かっていくのみだ。まだまだ、高みを目指して進化しようとしている。そんな姿にファンは引き付けられるのだろう。

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失礼な言い方になるかもしれないが、リーグ全体で見れば、3部相当のチームのひとりのセッターに過ぎないのかもしれない。だけど、これだけ魅力が詰まったセッターと出会えた事がうれしいし、これからも応援できる事が喜びでしかない。グリーンウイングスは離れたが、OG選手としてより一層の活躍を願うばかりだ。ますますの輝きでリーグを盛り上げ、グリーンウイングスを刺激して欲しい。

11/26、27 VCL2 群馬・伊勢崎大会 観戦記

今年のグリーンウイングスの強さと弱さが色濃く出た2日間だったと思う。「どちらが」というよりも「どちらも」今のグリーンウイングスなのだ。新チーム始動から大きな不安を感じずにはいられなかった。もちろん、まだ、その不安は払拭されていない。だが、ホーム2連戦を経て、このチーム、選手の潜在性、そして、さらなる成長をもって、リーグ中盤、終盤へと向かってくれるはずだという思いも強くなってきたのもまた事実だ。

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グリーンウイングスは、思うような形ができないまま新シーズンに突入した。経験豊かな選手たちがチームを離れたが、その分、高卒を中心に、才能と将来性ある選手たちが入部した。大きく様変わりする中で、チーム、個人ともに、もう一段上のバレーボールを見せてくれると期待していた。だが、サマーリーグ、国体や皇后杯の関東ブロック予選では、結果どころか、ゲーム内容でも低調なものが続いていた。

新チームは、攻撃面の強化を掲げながらも、相手の守りを打ち抜く強さがなく、連係も乱れることが多かった。自慢の粘り強い守りも、ボールへの執着心を欠くようなプレーが目立ち、ミスも多く、簡単に失点した。ならば、一体感で乗り切るのかと思いきや、コート内には元気がなく、不安に押しつぶされそうな重苦しい空気で包まれているのだ。試合を重ねども、勝てる感じどころか手ごたえすら得られない日々が続いていた。なにより、そうしたものが、見ている側にまではっきり伝わるのだから。

ホーム2連戦の初戦、PIアランマーレ戦が、まさにそれだった。

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今季未勝利のPIアランマーレは、攻守において勇敢なプレーを展開していた。だが、それ以上に、グリーンウイングスがふがいなかった。試合後、石原昭久監督は「準備はしたが、処理しきれなかった。これでは勝ち目がない。」と振り返り、エースの寺坂茜も、「対応しきれず、ミスでバタバタしてしまった。」と振り返った。相手を上回るものがなく、連続失点を止められず、勝負所で脆さを如実に現してしまった。結果、昨季、負けなかった相手に初黒星を喫し、今季初勝利を献上してしまった。

キャプテンの須﨑杏は、「勝ちたい気持ち、強いプレーへのこだわりが出せなかった。」と敗因を語るとともに、「経験が少ない選手が多い中で、勇気を持てるような声がけができなかった。」と自らを責めた。

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経験値のなさについては、開幕戦で、石原監督も指摘していた点だ。用意していたことは遂行できても、ゲームの中での変化、判断、対応は、個々選手にかかる部分だ。今季のグリーンウイングスには、この経験値がない。若さや勢いという推進力を失った時、敗戦への流れを止めることができないのが現状だ。

だが、このチームは、限りない可能性を秘めたチームでもある。それが2日目のGSS東京サンビームズ戦の姿だったのだろう。

開幕前、キャプテンの須﨑はこのチームの強さとして「爆発力」を挙げた。「そのスイッチを押しさえすればとてつもない力を発揮する。」と。今季のグリーンウイングスは、経験値を手放してまでも得たかった「爆発力」という強さがルーキーたちを中心に備わっているのだ。

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石原監督が、「昨日の悔しさを全てぶつけることができた気持ちの良いゲームだった。」と振り返ったこのゲームでは、各選手が吹っ切れたかのように躍動した。エースの寺坂も、両チーム最多の22得点を挙げ、決定率も46.8%と十二分な役割を果たした。チームとしても攻守において相手を上回る数字を残し、昨季、1勝3敗と苦手にした相手から価値ある1勝を挙げることができた。前日とは、まるで別チームのようだが、これこそが今季のグリーンウイングスの可能性、潜在性なのだろう。まだまだこんなものではないはずだ。

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若手選手たちも、漠然と日々を過ごしているわけではない。

パワフルなアタックを持ちながら、レシーブの課題が克服できず、今シーズンは途中出場に甘んじる格好の小林愛里は、「レシーブは苦手だが、ミス以上に点を取ってチームのためになりたいと最近思うようになった。」とポジティブな心理変化を話してくれた。

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小林は、他者を圧倒する魅力的な強さを持ちながら、ミスから萎縮し、その強さを失ってしまう事が多かった。だが、ホーム2連戦では、いずれも途中出場ながらミスを恐れぬ強さを前面に出し、数字以上の活躍と輝きでチームに明るさと勢いをもたらす事に成功した。些細なことかもしれないが、各選手が、自分にできる事、チームのために果たせること、勝利のために何ができるのかを懸命に考え、ゲームの中で表現しようと頑張っているのだ。これこそが、経験となっていくのだろう。

ゲームの経験は、机上では得られない。今季のグリーンウイングスは、これからもコートの中でもがき苦しむことが多いだろう。だが、苦しむ分だけ、悔しさを味わった分だけ、彼女たちは、確実に成長し、強さを身に着けてくれるに違いない。ここから先、勝利という結果でそれを証明してくれるはずだ。

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2016/17 VCL2 群馬・伊勢崎大会(伊勢崎市民体育館)

26日土曜 プレステージ戦 ●0-3(13-25、23-25、17-25)

27日日曜 GSS戦 ◯3-1(25-18、26-28、25-21、25-19)