ザスパチャンネルコラム#32 ~FMGUNMAザスパ中継連動企画 第26節レノファ山口FC戦 レビュー~

~FMGUNMAザスパ中継連動企画 第26節レノファ山口FC戦 レビュー~   「3-0」というスコアはもちろん、攻守に一体感を持ち、試合状況に的確に対応する姿はこれまでのザスパとは明らかに違っていた。そして、結果、内容もそうだが、限られた時間の中でその変化をやってのけたことに驚いた。 ザスパは、東京五輪による中断期間から、新型コロナウイルスの検査で陽性判定者が続き、草津キャンプが中止。また、リーグ再開後も、一時、活動が停止、さらに、リーグ戦1試合が中止になるなど、先が見通せない時間を過ごした。ゆえに、満足な準備、練習をした上で試合に臨むことなど困難だった。それなのに今季ベストゲームといえる結果、内容を我々に届けてくれた。だから驚いているのだ。 この日の試合で見せた、逆境の中での一体感、そして、これまで培ってきたベースをもとにした多様な戦い方。このサッカーが続くなら、残留争いを勝ち抜くのはもちろん、クラブ目標の勝ち点50以上、16位以内もクリアしてくれると感じさせる、そんな一夜だった。   ゲームの入りは、いつもと同じ4-4-2だった。いつもと違うのは、キャプテンの大前元紀をはじめ、今季の中心だった何人かの選手が不在だったこと。そして、これまで出場機会の多くなかった選手たちがスタメン、ベンチに名を連ねたことだ。ケガ人が多く、新型コロナウイルスの検査で陽性判定になった選手が不在の中、総動員というような状況だ。そして、中断期間の7月下旬にJ2磐田から期限付き移籍で加入した大武峻も初スタメンとなった。 冷静にチーム状況を見れば不透明な部分が多く、それが不安にも感じたが、ゲームが始まってすぐに、それが間違いだと気づかされた。ゲームを支配したザスパはあっという間にゴールを奪い、優位にゲームを進めていった。   攻撃で感じた変化は、多様さと推進力だ。これまでは、人から人へ繋ぐスタイルでボールを保持し、サイドを起点にゴールを目指したが、相手のプレッシャーからのボールロストやパスミスが目立ち、思うようにボールが回らなかった。また、サイドに入っても、クロスのミスや、相手ゴール前での人数不足も重なり、ゴールが遠かった。 だが、この日は、ボールをつなぎ、動かす部分と、スペースを突くロングフィードを柔軟に使い分けた。ゲームメイクの基本はボランチの岩上祐三だが、大武のフィード力も正確無比で、ふたりからのボールは面白いようにチャンスを作り続けた。相手3バックのサイドにあるスペースを効果的に突き、岩上、大武から良質なボールが配給され、髙木彰人や北川柊斗といったFWの選手が起点となりチャンスを作った。先制ゴールはまさにその形からだった。 また、前線から最終ラインまでがコンパクトで、選手間の距離感が良く、攻守に連動し、相手ゴール前に必ずと言っていいほど複数人が顔を出していた。どのゴールも、相手守備陣は後手を踏み、1点目は進昂平が、2点目は北川がフリーの状態でシュートを打てた。また、3点目を決めた中山雄登は中盤からゴール前までの長い距離を駆け上がってのゴールで、これまでなかった「厚み」が3得点につながった。   一方、守備においても攻撃同様、豊富な運動量と献身さをベースに、良い距離感の中で連動し、高い位置からプレッシャーをかけ、ボールを奪うシーンが多かった。サイドを突破されるシーンもあったが、最後は、ゴール前で畑尾大翔、大武、松原修平を中心に跳ね返し、相手に与えた決定機はいくつもないという印象だ。 運動量や献身さ、対人の強さ、距離感、立ち位置といったものは、これまでも求めてきたものだ。そして、久藤監督も同じように求めているが、この日、久藤カラーを感じたのが、対応力だ。相手の状況、ゲーム展開によって、これまでにはなかったフォーメーション変更を躊躇なく行った。 4-4-2でスタートしたこの日のザスパだが、後半、相手の選手交代を受け、中盤で捕まえきれなくなると、これまで見せなかった4-1-4-1の布陣で対抗した。中盤のケアとともに、青木翔大をFWに、白石智之を左MFに配置し、前線の起点とサイドの推進力を残した。ただ、時間が進むにつれ、運動量の低下、そして、幅のある攻撃を見せる相手の勢いをなかなか止められずにいると、ここでも久藤監督は積極的に動いた。内田達也、吉永昇偉、光永祐也を投入し、5-4-1の形に変え、守備に重心を置く形に変えた。相手ゴールに向かう矢印は弱まるが、中央を封じ、サイドでも対応する選手を明確にし、勝利に向かって、着実に時間を進めていったのだ。   久藤監督は、就任以降、「相手を見る」事を大切にしている。自分たちのサッカーはもちろんあるが、相手の状況、変化に対応することでゲームを優位に進められると考えているからだ。これまでのザスパは、選手交代こそあれど、フォーメーション変更を含めた戦術変更はほとんど見られなかった。しかも、これを時間がない中でチームに落とし込み、試合で実践し、勝利につなげたことに驚く。もちろん、指揮官の狙いに十二分に応えた選手たちにも驚かされた。 苦しい状況下に、選手、監督、スタッフが一致団結し、最大限の力を発揮し、リスタートゲームと言える重要な山口戦をものにした。   この日、キャプテンマークを巻き、先制ゴールを挙げた進昂平は、「全員がそれぞれリーダーシップを取って、戦った結果が勝利につながった。」と振り返った。誰かだけに頼るサッカーでは、この難局を、そして、厳しい残留争いは勝ち抜くことはできない。だが、この日のザスパは、全ての人がリーダーであり、主役であり、チームの勝利に必要な欠かせない力だった。そして、応援してくれるファン、県民、サポーターに、ここからの戦いに向けた本気度を示してくれたゲームだったと感じたし、またこの日の様なザスパが見たいと強く思ったはずだ。   残留争いのライバルで、北関東ダービーのライバルである栃木との大一番の試合が、今まさに行われている。1試合の勝利に酔いしれてはいられない。残留を確かなものへ、そして、さらなる高みを目指してザスパクサツ群馬とともに進んでいこう。 文/笹川裕昭