【オリコンニュース】
なぜユーミン 経年劣化しない?
 松任谷由実がデビューして今年で50周年となる。半世紀がたってもなお、「ひこうき雲」、「やさしさに包まれたなら」、「翳りゆく部屋」などの名曲はさまざまなアーティストによってカバーされ、どの世代にも愛されている。その偉業は年代によって異なる輝きを見せる。デビューから現在に至るまで今なお影響を与え続ける松任谷由実の功績を紐解く。

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■フォーク全盛に突如現れた女性シンガーソングライター プレイヤーでありながら提供曲でもヒットを生み出す礎に 

 71年の17歳で作曲家デビューし、72年にデビューシングル「返事はいらない」でシンガーソングライターとしてデビューした松任谷由実(当時は荒井由実)。73年、20歳そこそこでデビューアルバム『ひこうき雲』が発表されるが、それは彼女がミドルティーンの時に作ったものを研磨したものだということから、“神童”“天才”の言葉がまず心に浮かぶ。

 それまでの邦楽界は、かぐや姫などのフォークソングや歌謡曲、演歌がヒットを占めていた。そんな中で、都会的で、やや乾いた明るさ、一曲でまるで短編小説を読んだかのようなストーリー性の高い彼女の楽曲群は衝撃であり、そのオリジナリティもあって、唯一無二の存在として当時から注目を集めていた。

 フォークソングなども海外アーティストの影響を受けていたが、彼女の特徴は欧米のポップス風のコード進行とアレンジに、男に振り回されたり、恋愛にがんじがらめにならない、自立したクールな女性の目線を盛り込んだこと。どこか“情念”があった他アーティストとは一線を画すサウンドで、“ニューミュージック”として当時の若者を虜にした。

 「この背景は夫である松任谷正隆氏、またバックを勤めたキャラメル・ママ(後のYMOの細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆)、アルファレコードを設立した村井邦彦氏なくしては語れない」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「そもそもユーミンさんは6歳の頃からピアノを通してクラシックに親しんでおり、基礎的な音楽素養があった。ですが、基礎からわざとズラすことで音としての新たなチャレンジを試みたりもしています」(衣輪氏)

 またキャラメル・ママの細野晴彦のベースは言うに及ばずだ。表現の豊かさ、メッセージ性のある表現を楽曲が支えた。荒井由実をシンガーソングライターに誘った村井氏(代表曲・『翼をください』)は彼女の楽曲を単なる“ニューミュージック”で終わらせず、今なお世界中で愛されるシティーポップの礎を、彼女に付与した。

 ほかにも呉田軽穂の別名を使いながらも、三木聖子「まちぶせ」や松田聖子、観月ありさ、薬師丸ひろ子などの女性アイドルからブレッド&バター、田原俊彦、中村雅俊まで多方面のアーティストへ楽曲提供を。広い世代から愛されるという意味で、「ユーミン一強」の時代を作り出した。

■ジブリへの提供曲で再評価 楽曲そのものが“現役”であることで年代を超えた支持を確たるものに

 そんな松任谷由実を語るのに、外せないのがジブリだろう。1989年公開の『魔女の宅急便』の主題歌となった「やさしさに包まれたなら」、作中で主人公・キキが旅立つ時にラジオから流れてくる曲として挿入される「ルージュの伝言」、2013年に公開された映画『風立ちぬ』では、73年に発表された「ひこうき雲」が主題歌に。24年ぶりの“ユーミン×ジブリ”タッグを記念して、デジタルジャケットで配信されるなど話題になった。

 SNSでは「我々世代はユーミンをジブリで初めて聴くんだよね」「ジブリとかで自然と聴いていたし、なんなら音楽の授業でも歌ってたな」「ユーミンのひこうき雲ややさしさに包まれたならを聴くと無性にジブリ作品のそれぞれ魔女宅や風立ちぬ観たくなると言う強烈な魔法…」など、若い世代はジブリから松任谷由実の楽曲に親しんでいるようだ。

 松任谷由実の楽曲をカバーする他アーティストも数多く、aikoやスピッツ、椎名林檎、エレファントカシマシなど、今もなお一線で活躍するアーティストがカバーをすることによって松任谷由実は世代を問わず支持される存在に。最近では上白石萌音による昭和歌謡カバーアルバム『あの歌-2-』にて「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」や「まちぶせ」をカバー。King Gnuの常田大希、SuchmosのYONCE、Vaundyなど若い世代のアーティストにも影響を及ぼしている。

「こうした現象を見て思うのは、ユーミンの楽曲は常に“現役”であること。昭和歌謡の若者ブームは、竹内まりやさんや山下達郎さんなどの再評価が主であり、ジブリの功績はあれど、ユーミンの曲はサウンド的にもSNS世代にとっては耳馴染みのある“現役”というところがすごい。

 さらにはジブリの影響で海外でも聞かれた「ひこうき雲」の感想をWebで拾ってみたところ、主にアジア圏から“シンプルに美しい”、“人の心をぎゅっと掴む力がある歌唱力”、“なぜだか泣いてしまう”などの声が。音楽は国や言語を超える…を体現した存在とも言えます」(衣輪氏)

■篠原ともえの新たな才能発掘にも寄与 楽曲のみにとどまらない松任谷由実の影響力

 ライブにおいては、ただ彼女の楽曲を楽しむだけでなく、エンターテイメントとして捉え、テーマに沿ったステージ演出や映像でコンサートを表現するようになった。コンサートにサーカスを取り入れたり、水を使用したり。前人未到のエンターテインメントコンサートを開催。

 そのことについて松任谷はCD全盛だった90年代からCDが売れなくなる時代を予見し、「一番風圧を受けるところにいるから。『ついにユーミンが売れなくなったぞ』という世の中の反応がもろにくる。あくまで感覚的にですが、エンタメにシフトするぞということは分かっていました。松任谷(正隆)と2人で「興行は不滅だ」と言い合っていました」と過去に語っている。

 その彼女の世界観を表現するのに一躍かっているのが篠原ともえだ。2013年のライブツアーで松任谷由実の衣装デザインを手掛けたことをきっかけに、嵐のコンサートの衣装デザインも手掛けるように。篠原ともえの新たな才能を引き出し、楽曲のみならず、未知なる才能を発掘も行っている。

 また、松任谷由実にインスパイアを受けたのはアーティストだけでなく、小説家も。小池真理子、桐野夏生、江國香織ら6名の女性作家による松任谷由実の楽曲のトリビュート小説『Yuming Tribute Stories』(新潮社)や山内マリコが松任谷由実本人への取材をベースに彼女の少女時代を描いた『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』(マガジンハウス)を刊行。もはや松任谷由実という存在そのものが多方面のアーティストに影響を与えていると言って良い。

 現状に満足せず、時代を予見しながらフレキシブルであること。松任谷由実は、またその楽曲は、年代によって異なる輝きを放ち、新陳代謝と進化を繰り返しながら、リスナーの幅を広げていく。そんな彼女の偉業をリアルタイムに目で耳で見て聴くことができるのはなんという僥倖だろう。松任谷由実の50年の足跡を見つめることは、音楽の大きな歴史の1ページを目の当たりにすることと同義だ。
(文/西島亨)

(提供:オリコン)
半世紀に渡って人々を魅了し続ける“ユーミン”こと松任谷由実
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