【オリコンニュース】
モンベル、なぜ過疎地でも成功?
 コロナ禍が落ち着きを見せても、いまだアウトドアブームは盛り上がるばかり。キャンプ用品やアウトドア仕様のアパレル、車まで新規参入するブランドも多いなか、老舗として変わらぬ存在感を示すのが「モンベル」だ。同社の店舗を街中や郊外、はたまた「こんな場所に?」と思うような辺境で見かけることも多いだろう。最近では、アウトドア用商品が一般ユーザーにもバズる機会が増えている同社。一体どんな戦略があるのかを聞くと、意外な答えが返ってきた。

【写真】「雪やばっ!」この状態でも営業中…ブルドーザー必須、登山口にあるモンベル大山店

■「ここにもモンベル!」駅前やショッピングモールに続々出店、「狙ったわけではなく…」

 コロナ禍、“人とのふれあいが極端に制限される”状況下でブームとなったキャンプ。不特定多数との密集を避けつつも、余暇は充実させたい。そんな需要を満たしたのがアウトドアレクリエーションであり、状況が緩和してからも引き続き、多くの人を惹きつけている。

 アウトドアマーケットも盛況だ。専門ブランドはもとより、100円ショップやワークマンなど、新規参入組もこぞってキャンプ、アウトドア用品を発売。いまやレッドオーシャンと言える同マーケットの中で、以前にも増して存在感を放っているのが、老舗ブランド「モンベル」だ。モンベルクラブ会員は現在110万人まで増加し、全国に130店舗を展開している。

 実際、都心駅前の路面店や百貨店内、郊外の大型ショッピングモールなどで、モンベルの店舗を見かける機会はとても多く、アウトドアに馴染みのない人も「ここにもモンベルがある!」と感じることは多いだろう。こうした拡大の裏にはどんな綿密な出店計画があったのか、同社の常務取締役広報本部長・竹山史朗氏に尋ねると、「地道にやってきた」という非常にシンプルな答えが返ってきた。

 「狙って展開したわけではなく、たまたまショッピングモールが増えた時期に出店したというだけなんです(笑)。あとは、戦略というよりも、年月をかけて積み重ねてきた地域との関係性から声がかかり、人との縁による出店が多いですね。ただ地道に…それだけにリーマンショックなど、景気の影響は受けにくいところはあります」(竹山氏、以下同)

 とはいえ、全国を対象とした大規模展開ともなると、現地調査や人口をもとにした集客・売上予測を立てるのがセオリー。実際、近年は過疎化や人口減により、大手チェーンが地域から撤退するケースも相次ぐ。ところがモンベルの場合、都市部はもとより、観光客や登山客しか訪れないような辺境に、どんどん出店している。たとえば鳥取県の大山店は、中国地方最高峰・大山(標高1,709m)の登山口に隣接している。観光客、登山客の来店は見込めるかもしれないが、季節にも左右されることもあり通年営業には向かないのではないか。

 「たしかに、冬場はブルドーザーで雪かきするほどですし、雪に埋もれている状況ではまったく売れないんじゃないかと思っていました。ですが、実際は地元の人がたくさん来てくれた。地元の人に必要とされる物を提供できているから存続できているのであって、観光客など外からの人だけをあてにしていたら、続けることは困難だったと思います」

 それは、こうした辺境の店舗に限らない。数多く展開するようになった、地方の路面店についても言えることだ。

 「人口が約2300人の北海道の南富良野店など、1万人いかないような街にも出店しているのですが、だいたいどこに店を出しても、地元の人が来てくれています。ウェアやシューズなど、子ども用から大人用まで揃っていますし、地元の農家の方は『1日1回、なんだか立ち寄っちゃうのよね』と、コンビニ感覚で寄ってくれています。通販でどこにいても何でも買える時代ですが、やっぱり物を見て買いたいという需要はあります」

 一般にはあまり知られていないが、モンベルでは農業、林業、漁業といった第一次産業に携わる人たちに向けた商品も販売している。農作業の道具を使いやすく収納できるエプロンや、伸縮性があり機能性に優れたカバーオール、特殊保護材入りの林業用パンツ、プロ仕様のライフベストなど、これまで培ってきたモンベル独自のノウハウを凝縮し、従事者から好評を得ている。都市部ではアウトドアやアパレルの一ブランドと捉えられるかもしれないが、辺境や第一次産業の盛んな地域では“生活インフラ”に近いと言えるのではないだろうか。

 アウトドア製品で培った技術やノウハウを転用し、好評を得たケースはこれに留まらない。なかでも最近とくに注目を集めているのが、富山県・立山町からの依頼で開発された通学用リュックサック『わんパック』だ。こちらは大きな話題を呼び、一般向けにも発売。近年、ランドセルの重さや高価な価格に疑問を呈する声が上がっているだけに、『わんパック』の軽さや丈夫さ、リーズナブルな価格は歓迎され、またたく間に完売してしまったという。

 ほかにも、期せずしてヒットしたのが、『トレッキングアンブレラ』や『サンブロックアンブレラ』だ。その名のとおり、元は登山など過酷な環境での雨や風、強い日差しを遮るために生まれた商品ではある。だが、野外での活動用に軽くて丈夫に作られたものは、普段の生活でも重宝するのは当然だ。

 「これらがアウトドア好き以外の方にも注目していただけたのは、SNSによる拡散と、ショッピングモールへの出店が影響していると思います。ファミリーで来店していただく機会ができて、商品を手にとってもらう機会も増えたので。ただ、SNSでの盛り上がりは偶然ですね(笑)。発売からだいぶ経ってから、山好きなモデルさんや口コミで広まってくれました」

■流行やファッション感覚とは「目指しているものが違う」、ブームに乗せられない強度

 狙ってヒットさせるわけでもなく、出店も地域との“縁”。「必要だから」「求められているから」が、モンベルのシンプルな指針だ。

 「我々のものづくりのコンセプトは、“自分たちが欲しいものを作る”からスタートしています。起業から40数年の間に社員が増え、やりたいこと、欲しいもののバリエーションも多くなってきました。最初は登山用品からスタートしていますが、カヤックにサイクリング、家庭菜園など、社員の趣味の幅も広がってきましたし、子ども用製品も欲しい…といった要望が出てくる。そういった声を吸い上げて、企画部が整理して形にしてきて、現在に至っています。製品についても、数字上の合格基準以外にも、社員が使ってみてどうだったのかという、細いフィードバックを重視している。お店のスタッフなど、いろんなところから声が届きますし、商品化されてからも改良は重ねています」

 アウトドアが盛り上がる現在。それだけに、ライト層を意識したファッション寄りの商品、低価格のあまり耐久性などが不安視される商品もあるが、モンベルはあまりブームに左右されているようには見えない。

 「機能を追い求めていけば、そこに美しさが宿る。“Function is beauty(機能美)”を理想としています。目指しているものが違うところにあるので、流行にはあまり左右されないですね。世の中の動きとは関係なく、いつの時代もアウトドア好きな人を対象に地道にやってきました。結果的にブームの浮き沈みなど、悪い影響も受けにくいのではないでしょうか」

 本当に必要な機能を備え、快適さを追求した商品展開を続けて歩んできた40数年。世に溢れるマーケティングやセオリーとは、また異なるやり方で発展してきた。「求める人がいるから」とは、とても原始的でありながら究極の指針だ。たとえ現在のアウトドアブームが落ち着いたとしても、同社は変ることなく、人や地域とつながっていくのだろう。

(文:根岸聖子)

(提供:オリコン)
路面店やショッピングモール、辺境の地にもあるモンベルの店舗
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