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“子役出身”俳優のジレンマと躍進
 芦田愛菜、神木隆之介、まえだまえだの前田兄弟など子役からデビューし、今もなお活躍している俳優が増えてきた。これまでは子役でブレイクすると、その当時のイメージに引きずられ、大人になるにつれ徐々に人気に陰りが見えるケースもあった。昨今の子役出身者たちはいかにして“悲しき宿命”から脱却を遂げていったのか。

【画像】「違和感なさすぎて逆に困惑」セーラー服を着た35歳の安達祐実

■「役者としての使われ方が変わる」 “子役”としての評価が俳優生命を縮めるジレンマ

 子役出身で現在も活躍している筆頭といえば安達祐実。2歳でデビュー。10歳でテレビCM「ハウス食品・カリー工房(※正式表記は「カリー」は漢字)」で注目を集め、「具が大きい」というフレーズは流行語に。その後も順調に活躍し、1994年、テレビドラマ『家なき子』(日本テレビ系)では主人公に抜擢。12歳とは思えない演技力で脚光を浴びた。

 今でこそ、「子役の頃からイメージが全く変わらない」とその変わらぬ容姿が注目されているが、「見た目年齢と実際の年齢が合わないことで、使いづらかったのか、役が全然ない時がありました」(2018年5月18日放送「ダウンタウンなう」(フジテレビ系)より)と語っていた。

 70~80年代“子役ブーム”の先駆けとして活躍してきた杉田かおるやアラフィフで“毒舌キャラ”としてバラエティで再ブレイクした坂上忍は、子役でブレイク以降は、俳優業で同じような活躍することはできず、徐々に仕事が減っていったという。

 ドラマ『人にやさしく』(2002年フジテレビ系)で香取慎吾、松岡充、加藤浩次らと共演し、注目を集めた須賀健太も「子役にはよくある話なんですけど、高校に入ると仕事が少なくなるんですよ。役者としての使われ方が変わる、難しい時期なんでしょうね。僕も実際に経験して、高校時代は仕事が減ってしまったんです」と過去のインタビューで語っている。

 「“子役”というのは特殊なジョブ」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「子どもであるがゆえに“子役”。子役には中高生…つまり、子どもから少年少女になってしまうと子役としての仕事は減ってしまうジンクスがあり、ゆえに『消えた』という心無い表現に見舞われます。『キッズ・ウォー』(1999年TBS系)でその名を馳せたイケメン双子子役の斉藤祥太・慶太さんはスポーツインストラクター、解体業や塗装業、ガス配管などのアルバイトをしながら俳優活動を。『人間・失格』(1994年TBS系)での怪演が話題だった黒田勇樹さんも一度芸能界を離れてアルバイトをしたことを明かしています」(衣輪氏)

■分別がつかない子ども時代にブレイクするからこそ、重要なのは“大人の役割”

 “天才子役”としてブレイクしたがゆえの宿命がある一方で、彼らが波乱の人生を歩んでしまわないためには、彼らを守る親や事務所などの周りの大人たちの存在が重要になってくる。一番有名な例でいえば、映画『ホーム・アローン』で主演を飾り、10歳にして世界的な注目を浴びたマコーレー・カルキン。一躍スターとなったものの、ギャラをめぐって両親が裁判を起こした影響でカルキンは子役を引退。以降は薬中毒疑惑や激ヤセぶりが報じられた。この背景には、ブレイクした結果ギャラが高額になり、自分の意志がつく前の未成年にして一家の大黒柱として働かざるを得ない状況があったと考えられる。

 “守られる”存在のはずが“守る”役割を課され、役者、あるいは芸能しか選択肢がない状態に…。ほか、恒松祐里のようにレッスンや撮影のため、同級生たちとのコミュニケーションという“普通”のことができず、大人や子役ら芸能人たちの付き合いばかりになってしまうケースもある。「分別のつかない所に大金を持っていることで悪い大人たちが寄ってきて、最終的にその子役の人生を壊してしまうというエピソードも海外ではよく聞かれる話」(衣輪氏)。

「1999年の映画『シックス・センス』で注目された子役ハーレイ・ジョエル・オスメントも飲酒運転、激太り、空港職員に暴言を吐いて警察が出動するといった悲惨な現状に。『ターミネーター2』(1991年)のエドワード・ファーロングも薬物・アルコール依存やDVで逮捕。1970~80年代に人気だったドラマ『アーノルド坊やは人気者』のゲーリー・コールマンは、自己破産、DVなどが報道され、最終的には2010年、自宅で頭部を強打し、42歳という若さでこの世を去っています」(衣輪氏)

 また安達祐実のように、『家なき子』などに出演していた中学時代、実生活でも陰湿ないじめや嫌がらせを受け、引きこもりになってしまったパターンや、成長によって「劣化」などの誹謗中傷にさらされる事例は数多い。そういった声から、彼ら彼女らを守ること、メンタルケアをする存在や場所があることは非常に重要だ。「芝居に子どもらしさに求めるのに、子どもらしい経験を奪うのはまぎれもなく矛盾」と衣輪氏。注目を浴びたり、ブレイクしたときこそ、彼らが彼ららしくいられる場所を作ることが大切になってくる。

■「俳優」からいったん距離を置くことも“元子役の呪縛”を脱するカギに

 とはいえ、昨今の日本で、“元子役”俳優の活躍がめざましいのはなぜか。小学生時代、兄弟漫才コンビ「まえだまえだ」で大ブレイクし、その後NHK連続テレビ小説『おちょやん』で注目された前田旺志郎は「高校受験時にここから先はちゃんと将来を考えないと後戻りできなくなるぞ”と危機感を覚え」、自問自答の末「俳優という仕事を続けたい」という決意を固めたそうだが、彼の進路を家族は尊重したという。

 小林星蘭とともにユニットを組み、CDデビューを果たすなど子役タレントとして活動してきた谷花音は2021年にアメリカの高校に留学。最近では、実写版『ちびまるこちゃん』でまるこ役を演じブレイクした森迫永依も、高校時代は学業を優先しながら活動。上智大学を卒業した現在、女優の活動を本格的に始動。ドラマのほかにもその知性を生かしてクイズ番組などに出演し、活動の幅を広げている。

 5歳で子役デビュー以降、“天才子役”として活躍を奮ってきた芦田愛菜も、中学受験のため一時芸能活動をセーブ。以降活動を再開し、現在は女優だけでなく「病理医になること」を夢として語っており、“天才子役”を脱却どころか、今後の進路や活動が今や世間でも注目の的だ。この“中学生になったら学業に専念する”流れは、間下このみあたりから顕著に。ほか野村佑香、加藤清史郎らが続々と学業優先の道を選んだ。

 つまり大切なのは、子役としての活躍ではなく、彼ら自身の在り方を尊重すること。“子役”ではなく1人の“人間”としての人生も経験することだ。「俳優」から距離を置くことで、自身を見つめ直す時間(期間)が“元子役”の枠を脱する一つの手立てとなり、また「俳優」に戻ってもそれが人間性の厚みに。それが演技や芸能生活の幅を広げる結果となる。事実、吉川愛も「パン屋でバイトすることで一般のことを知れ、より繊細に役を考えられるようになった」と話している。

 今や子役時代の栄光は決して足枷ではないのかもしれない。最近では、子役からデビューしながら、着実にバイプレーヤーとして演技を積み、ブレイクした伊藤沙莉や、二代目「なっちゃん」として注目され、今年、映画『ドライブ・マイ・カー』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した三浦透子のような子役出身の実力派俳優もいる。子役の経験から自らの意思で演技の研鑽を積み花開いた例の一つだろう。子役としての評価以上に、彼らそれぞれの“個”を尊重すること。それが、彼らのキャリアの在り方を多様化し、結果、俳優業界にいい循環をもたらすのでないだろうか。

(文・中野ナガ)

(提供:オリコン)
子役時代以上の活躍を見せる芦田愛菜、前田旺志郎、伊藤沙莉、加藤清史郎
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