【オリコンニュース】
涙なしには観られない『なつぞら』
 4月1日にスタートした、広瀬すず主演のNHK連続テレビ小説第100作目『なつぞら』。ヒロイン・なつ(粟野咲莉)は、父親が戦死し、母親が空襲で亡くなった後、兄と妹と別れ、父親の戦友・柴田剛男(藤木直人)に引き取られて、北海道にやってくる。子役時代の2週間は、ネット上で「おんじ」と呼ばれる、草刈正雄演じる柴田家の厳しくもあたたかい祖父・泰樹に泣かされる展開が続いた。視聴率も評判も上々で、もっと長く観ていたいほどのクオリティだった。

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■「子どもらしくない」なつの人物像と、注がれる目線のリアリティ

 話題が泰樹に集中しているため、ここではなつと、なつを引き取ってくれた柴田家の人々の繊細な心理描写に注目したいと思う。

 本作の特筆すべき点は、西洋の名作児童文学を思わせるような美しさのなかに、綺麗ごとや建前ではなく、シビアな現実がしっかりと描かれていること。そして、登場人物一人ひとりが「良い人・悪い人」「優しい人・意地悪な人」「あたたかい人・冷たい人」「元気な人・おとなしい人」などの二元論的にわかりやすく描かれていないところだ。

 例えば、ヒロインは最初「明るく元気で礼儀正しく、ハキハキと挨拶する子」の印象がある。しかし、これに対して「あざとい」「わざとらしい」「良い子すぎ」という違和感を抱いた視聴者も少なからずいた。実はこの反応はごく自然なことだろう。剛男がシンプルな優しさで、なつを真っすぐ受け入れようとするのに対し、妻・富士子(松嶋菜々子)はなつのことを「子どもらしくない」という。確かに、いつでも笑顔で、周りの顔色を見て遠慮したり、すぐ謝ったりするなつは、「子どもらしくない」。

 なつは、朝ドラヒロインにありがちな「明るく健気な子」じゃない。遠慮がちのようで、食べ物を与えられると躊躇なくガツガツ食べる。また、戦災孤児として物乞いしていたときには、他人から恵んでもらったものをふんだくるように受け取るシーンもあった。これは、物質的にも精神的にも豊かに育った子がしない仕草だ。また、ウソをついて警察の保護下から逃げ出したり、お礼も言わずに柴田家から去っていったりもした。いずれも、生きるため、自分の居場所を得るために必死だったからだ。

 なつを「子どもらしくない」という富士子も、冷たい人というわけでもない。なつのことを「可哀相」と同情し、心配しながら、その一方で「あの子の親になる自信がない」と漏らす。これもごく自然な反応だろう。

■本音を言える子・言えない子、それぞれの思い

 柴田家の長女でなつと同年の夕見子の場合は、自分の服をなつにあげろと言われ、「嫌だ!」「ズルい! その子が可哀想なのは私のせいじゃないもん!」と子どもらしく本音で怒り、猛抗議する。やりたくないことも、食べたくないことも、子どもらしくはっきり言う。しかし、父がなつの姿に、同い年の夕見子を重ね合わせ、「2人が逆の立場だったら」と居ても立っても居られなくなったことで連れてきたことを知ると、自分なりに受け入れようと努力し始める。

 なつが同級生たちに嫌なことを言われると、代わりに怒り、それでも怒らないなつに「あの子何言われても怒んないし、なに考えてんのかわかんない」と戸惑いを見せる。

 さらに、なつが家族のことを忘れられずにいる様子を見ると、「この家にいたいのかどうかわからないと、どう接して良いかわからない」と戸惑いを直接、なつにぶつける。夕見子には、自分の事情に他者を巻き込むまいとする、なつの大人びた配慮による「無理に優しくしてくれなくて良い」の意味がわからない。自分の気持ちの持っていきかたがわからないから、「腹立つ」のだ。

 また、柴田家の長男・照男は、なつを引き取ってきた自分の父を「偉い」という。だが、なつの登場によって柴田家に起こった変化に、複雑な思いを抱いている。例えば、祖父が突然バターを作ろうと言ったことや、学校に行くときに祖父が畑から手を振ってくれたこと。

 そして、そうした「変化」を引き出したのが、なつであることに気づいている照男は、祖父に認められたい思いや焦りから、なつに対する若干のジェラシーを抱く。照男には祖父に対する尊敬と、将来自分が酪農を継いでいこうという思いがあるからだ。とはいえ、なつに敵意を向けるわけではなく、自分の思いは胸の内にしまったまま、自分も乳しぼりを教えてほしいと祖父に頼むことで、勇気を出して一歩踏み出す。

■優しい思いが交錯し、すれ違う、それぞれの「事情」

 なつの登場によって起こった柴田家の変化はさまざまだ。「親切な家族」とか「敵視→和解」といった短絡的な描き方は一切されていない。それぞれにさまざまな思いがあり、それぞれの立場や事情から、自分なりに考えて向き合おうとしている。それは、大人も子どもも同じだ。

 この「事情」というのが、序盤2週間のひとつのキーワードになっていた。泰樹はなつに頼まれて、空襲で家を失って東京から移住してきたなつの同級生・天陽の両親を説得しにいく。作物の育たない土地を諦めて、この地を去ろうとする山田家の父は、天陽がここで生きたいと懇願しても「それぞれに事情がある」と耳を貸さない。

 そこで、泰樹は言う。「事情なんかクソくらえだ。大人の事情で、この子らに何をやった!? なつの事情で自分はここにいる。今こそ、この子らが何をやりたいのか、大人が聞いてやるべきじゃないのか」。

 天陽の父も決して横暴なわけではなく、「子どもに苦労させたくない」という思いと自分の「事情」から、畑を諦めていた。しかし、「家族のため」という自分の事情が、必ずしも家族みんなにとって幸せな選択であるわけではない。子どもにもやっぱり「事情」があるのだ。

 自分にとって良いことが他の誰かにとっても良いことだとは限らないし、正解はひとつじゃない。当たり前のようで、非常に難しい、人が人を思う気持ちを丁寧に描く『なつぞら』に、毎日泣かされる日々だ。
(文/田幸和歌子)

(提供:オリコン)
連続テレビ小説「なつぞら」でヒロインを演じる広瀬すず (撮影:鈴木一なり)
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