【オリコンニュース】
情報誌『LDK』廃刊しない背景
 買い物で失敗したくない。それはすべての消費者の願いだ。しかしネットの口コミには一般ユーザーを装ったサクラが横行し、インフルエンサーのおすすめもステマの疑念が拭えない。ネットに溢れる情報に消費者が不信感を募らせる中、「広告なしのガチ批評」を編集方針とする生活情報誌『LDK』の存在感がますます増している。今年5月で創刊10周年。雑誌不況のさなかに一時は20万部を達成しながらも「雑誌事業だけでは赤字」。それでも愚直な誌面づくりを継続する『LDK』の使命感と生き残り術を聞いた。

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■1つの特集で100万以上使うことも…フェアでガチな批評のため検証商品は編集部で購入

 晋遊舎が発行する『LDK』は“テストする女性誌”をテーマに日用品や食品、コスメ、生活家電など暮らしにまつわるあらゆる商品を比較検証する生活情報誌。自社ラボの研究員監修のもと、編集部員、外部専門家、読者モニターなどが商品をテストし、その効果や使い心地の明確な根拠を示しながら、時には辛口を交えて批評するという硬派なコンセプトだが、誌面はあくまでポップ。読者の支持を得て、2013年5月創刊(月刊化)から10周年を迎えた。

「世の中にモノが溢れ、どれが本当に良いのか迷ってしまう時代です。だからと言って一般消費者が同じジャンルのモノを複数買うのは大変ですし、無駄も出てしまう。そこで編集部が『読者さんに代わって比較検証します』というのが弊誌のコンセプトです」(『LDK』編集長・高橋咲彩さん)

 『LDK』の最大の特徴は広告やタイアップ記事を一切掲載していないこと。これによりメーカーに忖度することなく、生活者に寄り添ったフェアでガチな批評を実現させている。

「誌面で扱う商品は基本的に編集部で購入しています。100均特集でさえ10万円使うこともしょっちゅうありますし、過去には収納特集でも100万円超えたこともあります。ただし生活家電など高額な商品は、メーカーさんに『低評価をつける可能性もあります』とご説明した上でご提供をお願いすることも。それでご納得いただけない場合は、頑張って買います」(高橋さん)

■辛口レビューが起こした転機「近年は『辛口評価は改善の好材料』と受け止めるメーカーさんが増えた」

 ちまたで大評判となっていた某外資系の生活家電を辛口レビューしたこともあった。

「これは私が編集長に就任する前のエピソードなのですが、日本上陸した当時、あらゆるモノ系メディアや家電芸人さんがこぞって絶賛していた商品で、読者アンケートでも『気になっている』という声が多かったんです。しかしLDKが読者モニターさんの協力で検証した結果は、たしかにスペックは素晴らしいけれど『重くて大きくて音が大きい』。女性視点を重視するLDKの見解としては『日本の一般家庭では少々使いづらい』と評価させていただきました。小柄なモニターさんからの声も実際多かったです」(高橋さん)

 この評価が晋遊舎の社内にちょっとした騒動を起こす。

「メーカーの技術者が本国から弊社にやってきたんです。さすがにちょっと身構えましたね(笑)。ところがクレームではなく『日本の消費者の実感をもっと詳しく聞きたい』とおっしゃって、私たちのテスト方法や評価軸に真摯に耳を傾けておられたのが印象に残っています」(同セールス&マーケティング局長・木村大介さん)

 その後、同メーカーのラインナップには日本市場を意識したと思われる小型軽量モデルも多く展開されている。

「もちろん私たちの批評だけが影響したわけではないと思います。ただ近年は『辛口評価は改善の好材料』と好意的に受け止めてくださるメーカーさんが増えました。またLDKの高評価は明らかに売上に直結するようで、かつてに比べたら商品の貸し出しもだいぶ苦労しなくなりましたね」(木村さん)

 辛口評価はするが、ただこき下ろすのではなく、そこには時間と手間をかけた検証による明確な客観的根拠がある。そのため「意外にクレームは少ない」という。

「メーカーさんが市場のニーズに合わせて商品を作ってくださるからこそ私たちも雑誌が作れるわけで、メーカーさんへのリスペクトはいつも念頭に置いています。ただし一番は使う人目線であること。私たちも生活者の1人としてよりよい商品に期待するからこそ、忖度はしないという姿勢でいます」(高橋さん)

■ガチ批評だからこそ生まれた認証マーク事業 「一次ソースが雑誌」であることが信頼性に大きく寄与

 商品テストはモノによっては数ヵ月に及ぶこともある。また「個人の感想です」では済まされないため、人的リソースも必要だ。さらに誌面で扱う商品は「なるべく編集部で購入する」という方針であり、編集コストは膨大にかかる。広告収入なしで雑誌を存続させているだけでも驚きだ。

「2018年にはおかげさまで実売20万部を達成しました。しかし世の中の雑誌離れはこの10年でますます進み、また紙の値段や輸送費なども上がっているため部数自体は減少傾向です。一方、スマホなどで読める電子書籍は非常に好調で毎号各種サービスの人気記事1位をいただいていますが、雑誌だけでは完全に赤字なのが実情です」(木村さん)

 とは言え、編集コストを抑えて誌面で扱う商品数を減らしたり、検証の精度を下げたりすればたちまち誌面のクオリティ低下につながる。そこで『LDK』をはじめとする晋遊舎のテスト誌が新たな収益モデルとして始めたのが認証コンテンツ事業だ。近頃、ドラッグストアやスーパー、ホームセンターなどで「LDK○年○月号ベストバイ」という認証マークを目にしたことがある人も多いだろう。これは『LDK』がテスト・検証した結果、心からユーザーにおすすめできると評価した商品に付与しているプライズマークだ。

「高評価を受賞したメーカーさんにこのマークを導入していただくことで、売上アップや信頼につなげていただきたいというものです。ただし認証コンテンツを扱う部署は雑誌の編集部とは完全に切り離しており、メーカーさんとの関係性ができてもこれまで通り編集部がフェアな評価ができる仕組みにしています。そもそも弊社の認証マークは『フェアな評価』にこそ価値があるわけで、そこをブレさせることは絶対にしません」(木村さん)

 近年は誌面にとどまらず、晋遊舎の他のテスト誌(『LDK the Beauty』『家電批評』『MONOQLO』)も含めた大量の情報をWEB記事化しているおすすめ情報サイト『360LIFE』のオリジナルコンテンツも充実しており、扱う商品のジャンルやアイテム数はますます増えている。それでも「出版社としての矜持の意味を含めて、紙の雑誌は存続させたい」とのことだ。

「ネットの普及で紙の雑誌を買う人は減りましたが、一方でWEB、Instagram、LINEなどにコンテンツを積極的にアップしていくことで、世の中とのタッチポイントは格段に増えました。そんな中『一次ソースが雑誌である』ことが、情報の信頼性に大きく寄与しているのではないかと感じます。また出版物という看板を背負っている以上、いい加減な評価はできないという編集部自身の責任感にもつながっています。雑誌を存続させるためにも、『LDK』のベストバイだけを集めたポップアップストアなど、雑誌ビジネス以外の選択肢は今後さらに模索していきたいですね」(木村さん)

 今年10月にはいわゆる“ステマ規制法”が施行される。しかしこれは企業から報酬を得て商品をPRするインフルエンサーなどを規制するもので、一般ユーザーを装ったやらせレビューや口コミには機能するかは未知数だ。消費者の目線はますますシビアになり、『LDK』にはさらなる追い風が吹いている。
(取材・文/児玉澄子)

(提供:オリコン)
テストする女性誌『LDK』創刊10周年の記念号特集は「10年間のベストバイ159」(画像提供:晋遊舎)
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