【オリコンニュース】
脚本家・野木亜紀子氏インタビュー
 ドラマ『アンナチュラル』(2018年)、『フェイクニュース』(18年)、『MIU404』(20年)、映画『罪の声』(20年、原作:塩田武士)等、社会派エンターテインメント作品を数多く手がける脚本家・野木亜紀子氏の新作オリジナルドラマ『連続ドラマW フェンス』が、WOWOWにて19日より放送・配信開始となる。

【動画】『連続ドラマW フェンス』本予告

 今回、野木氏が描くのは、2022年に本土復帰50年を迎え、今も世界最大規模の米軍基地を抱える沖縄の現在。「とてもじゃないけど背負えない」と一度は断り、引き受けてからも「こんなに複雑で重い荷物をどうしたらいいのか、と幾度も挫けました」と明かしている野木氏が、本作の執筆秘話を明かした。

 同ドラマは、東京から来た雑誌ライター“キー”こと小松綺絵(松岡茉優)と、沖縄で生まれ育ったブラックミックスの大嶺桜(宮本エリアナ)がバディとなり、ある性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス。

 執筆にあたっての“葛藤”を公式コメントで明かしていた野木氏。「かつて報道記者として沖縄に住んでいたという北野拓プロデューサーから『沖縄が舞台のクライムサスペンスを作りませんか』と言われたのが2020年の夏。そのときは『とてもじゃないけど背負えない』と断りました。ですが、企画としてはいま、作るべきドラマだと思いましたし、これを断ったら二度と書く機会はないだろうな、ということもあり、最終的に引き受けることにしました。北野プロデューサーの粘り勝ちでもあります」と当時を振り返る。

 「米軍関係者による事件・事故は、地位協定の壁によって日本の警察が自由に捜査できる範囲に制限がある。そのため起訴率も低く、被害者が泣き寝入りせざるを得ないという状況も多くある。普天間飛行場の移設をめぐる問題なども、沖縄県外に住んでいるとなかなか自分事として考えられない。沖縄が否応なしに背負わされてきたものを、私自身を含め多くの日本人が、なんとなくしか知らないままでいいのだろうかと思いました」。

 翌21年に沖縄・普天間出身の高江洲義貴プロデューサーが加わり企画が通ると、取材を開始。「物語自体はフィクションですが、現実にある社会問題を扱うからには、取材が必要です。エンターテインメントとして描くからこそ、現実に起きていることについては裏が取れているファクトを積み重ねなければなりません。今回は執筆するにあたって、沖縄のさまざまな人から話を聞いたのですが、これも必要、あれも聞かなきゃ、とやっているうちに、100人以上の人から話を聞くことになりました」と、話す。

 取材の中で野木氏が直面したのは「知れば知るほど複雑な現実」だったという。「沖縄でいろいろな方にお話しを伺っていく中で、立場が違えば言うことも違うという当たり前のことがすごく難しいと感じました。それによって、つらいことが起きているんですね。家族や親類、友達の中には基地で働いて生計を立てている人たちもたくさんいます。辺野古への移設問題にしても賛成か、反対かだけでは割り切れない。それによって昨日まで隣人だった人と対立せざるを得ない状況になってしまうことが実際に起きていて、それがずっと、続いてきたわけです。これだけ時間が経つと、若い人が思っていることと年配の方が思っていることも違ってきていて、世代間のギャップがあることも考えさせられました」

 挫けそうになりながらも、本作を書き上げた野木氏。「たくさんの問題があって、複雑な事情と人それぞれ抱く思いがあって、とても背負えない、と思いました。ですが、私一人で背負うものでもないなと気づきました。2人の誠実なプロデューサーがいて一緒に背負ってくれているし、私は脚本家なのだから、嘆いてないでとにかく脚本を書き上げなくてはならない。沖縄の人たちが背負わされている重い荷物のことを、まずは知ってもらうことが大切で、ドラマという形で視聴者の皆さんにお伝えすることで、ご覧になった方々にも少しずつ背負っていただこうかなと(笑)」。

 取材を通して感じた世代間のギャップは、ドラマにも反映させている 。「ドラマを通して、年配の方には今の若者たちはこんなことを考えているのか、と。若い世代の方にはこれまでのどんな歴史があって今に至っているのかを知っていただけたらいいなと思いました。それに、沖縄の人たちも意外と地位協定のことを知らなかったりする。事件や事故にあって初めて知る理不尽な状況がたくさんあるので、沖縄内外のすべての人に見てもらいたいですね」。

 野木氏の脚本を映像化するにあたり、リアリティを高めたのが、総勢50人を超える沖縄出身のキャストたち。その中には、新垣結衣も名を連ねる。野木氏が脚本を担当したドラマ『空飛ぶ広報室』(2013年)、『掟上今日子の備忘録』(15年)、『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)、『獣になれない私たち』(18年)に続いて、5作目の出演となる新垣は、沖縄在住の精神科医として日々の業務を行いながら、性暴力被害者の支援団体に協力し、登場人物たちに大きな変化を与える城間薫を演じる。

 「物語の中で重要な役でしたし、沖縄出身の方に演じてもらいたいと思いました。一番に浮かんだのが新垣さん。快く引き受けてくださいました。新垣さんもですが、基本的に沖縄出身の方が沖縄の人を演じているので言葉の自然さもあり、ドキュメンタリーのような味わいが出ています。皆さんのおかげで、沖縄の人でも違和感なく見られるドラマになったと思います」

 ジェンダーや人種、世代間の違い、沖縄と本土、日本とアメリカなど、さまざまなフェンスを乗り越え、人と人が分かり合う姿を、エンターテイメント・クライムサスペンスに仕立てた本作を「多くの人に見てもらいたい」と願うのみ。「お勉強だと思って見るドラマなんて楽しくないので、まずは軽い気持ちで見てもらえたら。キーと桜、女性同士のバディものとして楽しんでいただけると思います。WOWOWはスマホやパソコンからも見られますし、第1話は無料放送なのでぜひご覧ください」と、呼びかけた。

 同ドラマは、3月19日スタート。WOWOWプライムで初回放送(毎週日曜 後10:00、全5話※第1話無料放送)、WOWOWオンデマンドで配信(各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信)。

(提供:オリコン)
WOWOWオリジナルドラマ『連続ドラマW フェンス』脚本を手がけた野木亜紀子氏
【関連記事】
松岡茉優×宮本エリアナ、W主演 野木亜紀子の新作『連続ドラマW フェンス』
【動画】『フェンス』主題歌入りの特報映像
湯浅政明監督『犬王』ゴールデングローブ賞ノミネート
“ヒップホップ界の女帝”Awich、ハブ酒をプロデュース 沖縄の文化を広める第一歩に
結成40周年のTM NETWORK、強烈なサウンドで“同い年”の「G-SHOCK」祝福 Awichとのコラボも

▲ページTOPに戻る