【オリコンニュース】
トランスジェンダー、配役への想い
 自らのプロフィールに「トランスジェンダー男性の俳優」と掲げる若林佑真。現在放送中の木ドラ24『チェイサーゲーム』(テレビ東京系/毎週木曜 深0:30)では、ゲーム開発会社が舞台の同作でトランスジェンダーのインターン生を演じる。女性として生まれ、男性として生活する“当事者”であることから起用されたという。大学卒業後にエンタメ業界に進み、現在30歳。俳優、舞台プロデューサー、LGBTQ+に関する講師や監修など多岐にわたる活動してきた若林の経験から、日本のエンタメ業界におけるトランスジェンダー配役の現在地について語ってもらった。

【写真】「じつは僕、トランスジェンダーなんです」面接中にカミングアウト…“当事者”演じるドラマシーン

■当事者を演じることで表現できた、リアルで等身大な人物像

――出演中のドラマ『チェイサーゲーム』は、地上波ドラマ初出演とのこと。キャスティングの経緯を教えてください。

【若林佑真】現代の企業が抱えるさまざまな課題を描きたいと、脚本のアサダアツシさんがご提案されたそうです。ただし条件は、当事者の俳優が演じること。シスジェンダー(※)の俳優を配役する選択肢はなかったとおっしゃっていました。そうした思いを持って僕をキャスティングしてくれたことがとてもうれしかったです。

――企業が舞台のドラマで、トランスジェンダーが働いているという設定についてどう思いましたか?

【若林佑真】実際に僕がそうだったように、トランスジェンダーの方は、見た目と戸籍上の性別の違いにより、就職することが困難な場合があります。一方で、僕が演じる渡邊凛のように、ありのままの自分として一般企業で働く方もいます。そこは現代のリアルだと思いました。にもかかわらず、これまでの地上波ドラマで、トランス男性が「ごく普通の生活者」として登場することは滅多にありませんでした。僕が演じる役が、「トランス男性は全員こうだ」といった誤った固定概念を植え付けてしまわないようにと、そこにはプレッシャーも感じましたね。

――当事者として脚本を読んで、いかがでしたか?

【若林佑真】実は今回、僕は脚本の段階から参加させてもらったんです。監督の太田(勇)さんから「当事者の心情として違和感がないか確認してもらいたい」とご依頼を受けての流れでした。そこで指摘させていただいたことは、脚本に反映されています。もちろんすべてのトランス男性が、「渡邊凛」と同じ心情ではないとは思います。けれど、少なくともこれまで描かれてきたトランス男性とは違う、リアルで等身大な人物像になったと思います。

※出生時に割り当てられた性別が性自認と一致し、それに従って生活する人のこと。

■「芸能界で活躍するトランス男性がほとんどいなかった」希望を与えたい想い

――若林さんがエンタメ業界に入ったのは8年ほど前のこと。当時、トランス男性としてどのような壁にぶつかりましたか?

【若林佑真】1つ目の壁は、日本の芸能界で活躍しているトランス男性がほとんどいないことでした。当時、あるメディア関係者の方に「男が女に“成り下がってる”のは笑えるけど、女が男に“成り上がってる”のは少しも面白くない」と言われて、「今のエンタメを作ってる人ってそういう認識なんだ…」とちょっと絶望したことがあったんですよね。

――「男性が上、女性が下」という意識ですね。トランス女性に比べて、トランス男性は圧倒的に活躍のチャンスが少ないということですか?

【若林佑真】当時も、“オネエ”として紹介されるタレントさんの中に、トランス女性の方もいました。だけどあくまで「イジられ役」。笑えないと判断された途端、メディアに呼ばれなくなった方もいたと記憶しています。一方で、トランス男性の出番はほとんどなかったけど、たまにドキュメンタリーで扱われれば「つらい・苦しい・死にたい」の、悲惨な話ばかり。自分も含め、当事者として悩んでいる子がそれを見て、誰が希望を持てるんだと思っていました。

――若林さんは早い時期からカミングアウトして仕事をされていました。俳優がキャスティングされる上で、壁を感じたことはありましたか?

【若林佑真】まず当時はトランス男性が登場する作品がほとんどなかったですし、僕はすでにホルモン治療を受けていたので、いただくのはシスジェンダーの役ばかりでした。それも十分ありがたかったけれど、僕がエンタメ業界に入ったのは、「トランス男性でも役者として活躍できる」ことを証明したかったから。カミングアウトして活動することで、エンタメ業界を目指すトランスの子たちの希望になりたかったんです。

――だけどシスジェンダーの役だけを演じていては、その思いは伝わらない。

【若林佑真】はい。その想いもあって立ち上げたのが、LGBTQ+という生き方をテーマにした演劇媒体『Pxxce Maker'』です。僕はプロデュースを担当していますが、配役については「当事者が当事者を演じる」だけに縛ってはいません。というのも、日本にはトランスの俳優がまだまだ少ないからです。「トランスジェンダーだから」ということが、俳優を目指す上での壁にならない状況を作るために、こちらの活動も頑張っていきたいんです。

■“元・女性”自虐ネタを指摘され…「面白い表現とは、そういうことではない」得た気づき

――トランスジェンダーの立場から、現在の日本のエンタメ業界にどんなことが必要だと思いますか?

【若林佑真】トランスジェンダーだけでなく、さまざまな生き方をする人が当たり前に存在する地上波ドラマが、もっと増えたらいいなと思いますね。海外のドラマでは、「母親が2人いる家庭」や「女の子同士のカップル」が、何の注釈もなくごく普通に登場する作品もあります。地上波ドラマは、映像作品の中でもとくに時代を写す鏡だと思いますし、日本も早くそんな社会になってほしいという希望はあります。

――ではトランス男性が「特別な存在」ではなくなったとき、若林さんはどんな俳優でありたいですか?

【若林佑真】僕は2014年から、木村昴さんが座長を務める劇団『天才劇団バカバッカ』で演出助手を担当しているんですが、最近、昴さんに指摘されてハッとしたことがありました。トランス男性ってどうしても腫れ物のように扱われることが多くて、僕はそれがすごくイヤだったんですね。だから逆に、自分から「元・女性」であることを自虐ネタにすることがよくあったし、実際それで笑ってくれる人も多かった。ところが昴さんは、「若ちゃん、面白い表現ってそういうことじゃないよ」とズバッと言ってくれたんです。

――表現者としての重い言葉ですね。

【若林佑真】その言葉に鳥肌がバーッと立ちました。表現者としては「面白い」「もっとこの人を見たい」と思ってもらうことが重要だけど、それは決して自分を卑下することじゃない。自分自身の表現を磨いて突き詰めて掴んでいくものなんじゃないかという、エンタメの本質的な部分を教えていただいたんです。

――トランスもシスも関係なく、多様な俳優が同じ土俵で切磋琢磨し、それによってエンタメがもっと面白くなることに期待したいです。

【若林佑真】僕も「トランス男性」だけが武器ではない俳優を目指しています。一方で、今この瞬間にも当事者として悩んだり、つらい目にあったりしている人はたくさんいます。僕が表に出る立場を活用して、理解を深める発信を続けていきたいですね。

(提供:オリコン)
「トランスジェンダー男性の俳優」として活動する若林佑真
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