【オリコンニュース】
青銅さんが語る『オードリーANN』
 伊集院光とオードリー。ともに“ラジオ”が主戦場のひとつである2組だが、その共通点となる人物がいる。“青銅さん”の愛称で親しまれている藤井青銅氏だ。第1回「星新一ショートショートコンテスト」入賞を皮切りに、作家・脚本家・作詞家・放送作家のみならず、腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを手がけていた、柳家花緑に落語を書いているなど、多岐にわたって活躍しているにもかかわらず、本人は「誰だかわからないでしょうけど、いろんな仕事をしながら40年やってきました(笑)」と謙そんする。そんな“青銅さん”に、伊集院・オードリーとのラジオについて聞いてみた。

【写真】伊集院光「僕にラジオを教え込んだ人」 名物作家の青銅さん

■『ANN』の風通しの良さ「わからない人がいてもいい」 伊集院光がリスナーとの共犯関係で生み出した“芳賀ゆい”

 1987年、とあるお笑い番組に審査員として呼ばれた藤井氏は、その場で伊集院と出会う。翌88年より、毎週深夜3時スタートの『伊集院光のオールナイトニッポン(ANN)』が立ち上がる。「深夜1時からの一部、深夜3時からの二部の番組があるとして、その中でひとつかふたつはなんだかわからない人がいてもいいっていうのが、ANNの風土だと思うんです。当時の伊集院さんはギャグオペラ歌手という肩書きだったので、まさに本当になんだかわからない上に、顔も知られていない状態でした。今のANNでいうと、佐久間宣行さんのANN0が始まった時のように『テレビ東京の社員がANN0をやるんだ』っていう面白さみたいなものですかね」。

 ここで、伊集院の言葉を引きたい。5月23日放送のテレビ朝日系バラエティー『証言者バラエティ アンタウォッチマン!』で、オードリーの2人が「それぞれが週1本ずつのトークを持ってくるようにしようって、最初の新人はみんなそうするんだと思っていたんですけど、それがずっと続くのは自分たちのこだわりじゃなくて、騙されたんだよね」と笑いながら話していたことを受け「オードリーにフリートークをいっぱい用意させていた人っていうのが、僕が19歳の時にオーディション番組に出たときの審査員長で、僕にラジオを教え込んだ人なんです。藤井青銅さんっていう、有名な人なんですけど」と打ち明けた上で、こう語っていた。

 「ラジオの放送作家というと、スタジオで一緒に笑っているイメージなんだけど、番組が始まる前に『きょうは何の話をする?』ってひと通り聞いて、帰っちゃう。オードリーも頑張っているんだけど、オードリーのラジオの能力を見つけて、あのやり方を…。その基礎の叩き込み方がすごくて、オードリーの才能がすごいから、今弾けているんだと思う」

 『伊集院ANN』時代に話を戻して、同番組には直接関係のなかった藤井氏だったが、ふらりと寄ったニッポン放送で伊集院と会うことが多く、何気なくフリートークの内容を聞いてアドバイスを送ったり、シャレも含めて「手書きのレポート」を渡したこともあった。それが、伊集院が言うところの「僕にラジオを教え込んだ人」という意味になる。『伊集院ANN』では、リスナーとの共犯関係で、コーナーからバーチャルアイドルの芳賀ゆいが誕生。90年には架空のアイドルながら「芳賀ゆい握手会」も実施され、2000人が集まるなど、大きなムーブメントになったが、藤井氏も目を細める。

 「なんだかわからないことが面白いんですよね(笑)。アイドルのあるあるをイジろうとか、途中からはそれで世間を驚かせようというコーナーで、パーソナリティーもリスナーもクールで、アイドルのパターンを使って遊んでいたんです。ラジオで盛り上がって、テレビ・雑誌といったメジャーなところをどれだけ騒がせられるか、騙せるか(笑)。そうすると、リスナーもよき共犯者になるんですよね。それが醍醐味です…って、僕は番組には直接タッチしていないので、そういうことだと思います(笑)」

■オードリーANNのOPトークは「予想外の事態」 “春日のトークっぽさ”を指摘

 それから18年後の2005年、藤井氏の発案で30分間のフリートーク・ラジオ番組『フリートーカー・ジャック!』(ラジオ日本)がスタート。数組の若手芸人たちがフリートークを披露する“実験の場”として設けられた同番組で、若林の話術に惹き込まれ、ほどなくして冠番組『オードリー若林はフリートーカー・キング!』が放送された。08年12月の『M-1』で強烈なインパクトを与えたオードリーは準優勝とともに大ブレイク。かねてから若林のトークに注目していた藤井氏は「オードリー売れたから使おうよ。絶対しゃべれるから。トゥースの方はしゃべれないけど」と旧知の仲のスタッフを口説き、翌09年2月に特番『オードリーのオールナイトニッポンR』(ニッポン放送)が決定した。

 8ヶ月後の09年10月から『オードリーANN』が産声をあげる。レギュラー化にあたって、藤井氏はオードリーに2人のトーク、それぞれのトークが聞きたいと伝えた。「はじめの方から聞いていらっしゃる方はわかると思うのですが、通常のラジオ番組よりも2つくらい少ないけども、3~4つくらいのコーナーはあったんです。忙しくなるとトークするのが難しくなってくるので、その場合はコーナーを増やしましょうと。そうすると、普通のラジオ番組と同じような構成になるのでと伝えていたら、トークがどんどん伸びていって、曲もかけなくなるという予想外の事態になっちゃったんです(笑)」。

 今では2人のオープニングトークで約40分、それに加えてピンでのトークパートも用意されている“超ストロングスタイル”のラジオ番組となった。「クオリティーが下がらなくて、ずっと面白いですよね。ご本人たちにも伝えているんですけど、レギュラーでやっているから、きょうは冴えないなーっていう日がもしあったとしても、リスナーのみなさんは同じ時間に生きている人間なので『年末はテレビを撮りためて大変だろう』という事情も、わかってくれますよね(笑)。『大変だよー』って、ずっと愚痴を言っている週もあってもよくて、何週か後にすっごく面白いトークがあれば、すべてがよくなる。それはレギュラーの強みですね」。

 それぞれの楽屋を訪れて、トーク内容を聞いていた藤井氏だが、今では若林正恭のトークのみを事前に聞いている。なぜ、春日俊彰のトークを事前に聞かなくなったのか。「春日さんにもアドバイスをしたら、どんどん上手になっていくんですけど、ちゃんとしているとなんか“春日さんのトーク”っぽくなくなっちゃう」と笑いながら明かしてくれた。

 「春日さんだと、題材になる場所になかなか行かないという特徴があって、若林さんが『早く家から出ろよ!』とツッコミを入れていますよね(笑)。それが春日さんの味だと思います。もし、僕がアドバイスをするとしたら、春日さんもコンパクトなトークができるんだけど、なんか違うなと。今は(作家として入っている)佐藤満春くんが春日さんのその辺のこともうまく残しながらやってくれています。結局、時間におさまらなくて、ジングルでぶった切られたりするんですけど、それが春日さんの面白さですよね。伏線があって、スパッと落ちるっていうのは春日さんらしくない(笑)」

■萩本欽一&若林正恭“キンワカ”成功に確信 “面白い”重視で一歩半先を行く

 若林とは、事前にどういった形でフリートークを決めているのだろうか。「候補がいくつかある時は『どっちですかね』『こっちがいいんじゃないかな』とか、『これを寝かしておくと。来週くらいには面白くなるかもしれないね』とかです。僕が作るわけではなくて、あくまでアドバイスをするということですので。伊集院さんの時もそうなんですけど、自分は体験していることだから、説明を端折って話をしてしまうんです。ご本人の頭の中に映像がありますから。それで、僕は最初に聞くから『それはどこ?』『どういう人なの?』とか補正ができるので、多少は役に立っているのかな」。

 そんな藤井氏が温めていた企画が、萩本欽一と若林の“キンワカ”コンビによるラジオ番組だった。オードリーがメインパーソナリティーを務めた、17年の『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』に、萩本が出演した際、若林は大先輩の萩本相手にドンドン切り込んでいき、ついにはコント55号のネタをオードリーに“あげる”という流れにまで持ち込んでいった。藤井氏は「その前くらいから、コント55号とオードリーは似ているなと気がついて、若林さんとも話をしていました。それで『ミュージックソン』で、ネタを全部くださいっていう話があったりして。そこでのトークも面白かったから、あの後から2人のトークをやりたいと、ずっと思っていたんです」と明かした。

 藤井氏は、コント55号時代の萩本をリアルタイムで見ていたことから、世代をこえて2人が共鳴するに違いないと踏んでいた。「萩本さんと若林さんの間には、その間にもうひとつ世代があるくらい、年齢も離れているので、話しやすいだろうなというのはありました。あとは2人とも江戸っ子ですよね。萩本さんは浅草、若林さんは築地とウソをついている入船ですが(笑)。だけど、同じ隅田川の流れの、下町の文化で育っている。芸人の価値が今ほど高くない時代の浅草芸人の雰囲気を萩本さんは知っていて、若林さんも、ショーパブという、タレントさんとはちょっと違う世界で、浅草の匂いに近いものに触れている。すごく共通点があるんですよということを、企画書に書きました」。

 キンワカ特番は今年1月に実現したところ、大好評を博し、5月には第2弾も実現するなど、2人のトークを求める声が高まっているが、藤井氏も顔をほころばせる。「台本もほとんど何も用意してなくて、あとは2人でしゃべってくださいという感じで、やってもらっています(笑)。こうして企画がうまく成立して、参加者がみんな幸せになって、視聴者・リスナーの方も面白いねって言ってくれたら幸せですね。萩本さん、若林さん、両方にメリットのあることだと思うので、やってよかったです」。

 本人曰く「一歩半先をいってしまうので、面白いが先にたって、一番儲からないんです(笑)」という藤井氏だが、星新一さん・大滝詠一さんからウッチャンナンチャン・伊集院・オードリーといった多くの人々との数奇な出会い、“面白い”を形にする方法などをつづった書籍『一芸を究めない』(春陽堂書店)を刊行した。「世の中が一芸を究めない方向になっておりまして、私としては珍しく、世の中の動きと私の動きが合致した本です。芸能本であり、ビジネス本であり、人生本であり、お仕事本になっていますので、芸能界に興味のある方はもちろん、ない方も興味を持っていただけるとうれしいです」と呼びかけている。

【藤井青銅(ふじい・せいどう)】
1955年山口県生まれ。第一回「星新一ショートショートコンテスト」入賞。以来、作家・脚本家・作詞家・放送作家として活動を開始。ライトノベルの源流とも呼ばれる『死人にシナチク』では“笑いの青銅ワールド”を確立した。『夜のドラマハウス』NHK-FM『青春アドベンチャー』『FMシアター』など、書いたラジオドラマは数百本におよぶ。『オールナイトニッポン』をはじめ多くのラジオ・テレビ番組の台本や構成も手がける。腹話術師・いっこく堂のデビューにあたり脚本・演出・プロデュースを担当。そのほか、小説、エッセイ、歴史ウンチク本など、さまざまな分野でユニークな作品を多数発表する。現在、落語家・柳家花緑とつくる47都道府県の新作落語「d47落語会」プロジェクトが進行中。著作に『一千一ギガ物語』『「日本の伝統」の正体』『ハリウッド・リメイク桃太郎』『幸せな裏方』『ラジオにもほどがある』『ゆるパイ図鑑』などがある。

(提供:オリコン)
藤井青銅氏 (C)ORICON NewS inc.
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