【オリコンニュース】
エンタメ目線で地域を活性化
 4月30日に人気声優・三森すずこの「Stay Home応援メッセージ」動画がYouTubeにアップされ、アニメファンを中心に話題を集めた。同動画を手がけたのは、総合エンターテインメント企業ポニーキャニオンで、地域活性化事業を専門に手がけるエリアアライアンス部。これまでに制作した4本の大垣市アニメーションや実写映像を織り交ぜ、アニメの主役を演じた三森が「今はstay home。大垣市のアニメーションで観光した気持ちになって。コロナウイルスが収まったら大垣市に遊びに行きましょう!」と呼びかけた。同社が地域活性化事業をスタートさせて、今年で6年目を迎える。数々の成功事例を積み上げ、売上も快調に伸びている。本動画は、その歩みの一端を垣間見ることができる取り組みだった。

【動画】三森すずこ「Stay Home応援メッセージ」

■今は行けない・行かない地域との関係性を繋ぐポニーキャニオン地域活性化事業

 
 新型コロナウイルス感染拡大が契機となり、リモート会議やオンライン飲み会といった新たなカルチャーが定着つつある中、ポニーキャニオンでは、「#stayhome バーチャル背景で地域を応援しよう!」と題して、日本各地の素晴らしい風景や文化を映し出した画像やアニメの1コマを4月末より無償提供している。5月15日現在では、全国33自治体・地域団体・地域法人(日本 味の宿加盟旅館)のバーチャル背景が公開されている。今後も随時追加されていく予定だ。

 同社で地域活性化事業を専門的に手がける「エリアアライアンス部」部長の村多正俊氏は、この施策の意図を次のように語る。

「自分の出身地や思い入れのある地域のバーチャル背景を活用してもらい、話のネタにしていただければと考え、提供を始めました。今は行けない・行かない地域と、気持ちを繋げていてほしいという思いがあります。おそらく外出自粛の解除後もテレワークはますます広がると考えられますので、バーチャル背景の提供は続けていきます」

 同社が地域活性化事業への取り組みを始めたのは2015年のこと。村多氏が座長となり、「エンターテイメントで地域を、日本を元気に」を事業コンセプトに社内有志で地域共業ワーキング・チームを立ち上げたのが、そもそもの始まりだった。

「もともと日本各地の文化に興味があり、アーティストプロモーションやイベントで地方を訪問することを秘かな楽しみとしていました。ただ、今から15年ほど前でしょうか。地方都市が急速に疲弊していくのを肌で感じるようになり、エンタメの力でお役に立てることはないか? と考えるようになりました」

 一方で、10年代に入って、同社でもパッケージの売上を補完する新規ビジネスの創出が求められるようになった。そこで村多氏が提案したのが地域活性化事業であった。

「地方開催のフェスやアニメの聖地巡礼といった事例からも、エンタメに集客力があることは証明されています。また、エンタメのプロモーションの基本は、定めたターゲットに向けたコンテンツを制作・訴求し、さらに検証とアップデートを繰り返して、『点を線にしていく』ことですが、この手法は地域プロモーションにもそのまま応用できるはずだと確信していました」

 地道に実績を重ね、17年6月には地域活性化をエンタメ目線で行う業界初の部署、エリアアライアンス部が創部。当初は、動画制作がメインの受託案件であったが、次第に地域の「宣伝・広報・営業活動」全般を行うシティプロモーションを手がけるようになり、事業規模は一気に拡大していった。これまで全国の自治体・地域団体との関係性を深化させ、売上も右肩上がりで伸長している。

■蓄積してきたクリエイティブのリソースとノウハウが武器

 
 地域プロモーション案件はコンペが基本であり、その競合となるのが主に広告代理店だ。地域活性において、同社の強みはどこにあるのだろうか。

「データの収集や分析などは広告代理店さんに一日の長がありますので、そこは我々も尽力しているところです。当社の最大の強みは、クリエイティブのリソースとノウハウ、そして自分たちでディレクションの判断ができることでしょう。たとえば地域活性を目的としたアニメを作る場合、コンペの段階からキャラクターや声優、主題歌アーティストまで一貫した提案ができます。一部をアウトソースするにしても、エンタメ企業として築いてきたマネージメントやクリエイターとのアライアンスには強固なものがあると自負しています」

 さらに受託した案件はコンテンツ制作であっても、責任を持って広報・拡散することをモットーとしている。同社のホームページをはじめ、SNSやYouTubeアカウントといったオウンドメディアを活用できるのも強みの1つだ。

「これはエンタメ企業の文化ですね。せっかく作ったものは、1人でも多くの人に見てもらいたいじゃないですか(笑)。ですから、コンテンツ制作のみを発注された場合でも、広報宣伝は事業費内で必ずセットに組み込んでいます」

 そういった姿勢も相まって、近年ではコンペを通さずに業務委託を受ける「随意契約」も増えてきており、今は同部売上の大きな柱となっている。18年度よりPRアニメを制作している岐阜県大垣市もその1つで、今年4月にも新作アニメ2作がYouTubeなどで公開された。原作は同市出身の小説家・中村航、ヒロインと主題歌は人気声優・三森すずこが務め、アニメファンから「自治体PRの枠を超えた名作!」と高く評価されている。

「今年4月に公開したうちの1作が『大垣まつりにいこうよ!』。例年5月に開催されているお祭りですが、残念ながら今年は中止となりました。そこで急きょ三森さんに応援メッセージをいただき、アニメのシーンと組み合わせた新作動画を制作、公開しました。これも三森さんが弊社アーティストだから、迅速に実現できたことです」

■エンタメの力で自治体プロモーションはこれからますます面白くなる

 
 それが自然発生的なものであれ、仕掛けられたものであれ、エンタメが地域活性の一助になる事例が多いのは事実だ。しかし、地域活性に専門的に取り組むエンタメ企業は極めて少ないのはなぜか。

「1つの理由としてはコンペに参加するまでの手続きが煩雑だからでしょう。また案件の公示からコンペに至るまでの短期間にチームを編成し、自治体が抱える課題を正しく理解し、ソリューションを提案するといったフローが円滑に回る組織体にするのにはなかなかどうして容易ではありません。ともかく時間がかかります。吉村隆(代表取締役社長)がその点をしっかりと理解し、この事業を根気よく後押ししてくれたことは非常に大きかったですね」

 それ以外の理由としては、エンタメ企業がこれまで享受してきた恩恵が地域活性事業からはもたらされない点ではないかと、村多氏は推察する。

「地域プロモーションはエンタメと違って倍々ビジネスが成立しません。要は受託した時点で事業規模が決まっているので、どんなにコンテンツが多くの人に受け入れられたとしても、弊社の収益は変わらない。1曲ヒットすれば何十億なんてことはあり得ないのです。とはいえ、その逆も言えて、ヒットが確実ではないモノに巨額のコストをかけて制作・宣伝するのとは違って堅実な事業ではあります。
 ただ、そこに醍醐味が感じられないのかもしれません。しかし、自分とは全く関わりのなかった地域に何かをきっかけに関心を持ち「関係人口化」し、そこに何度も足を運ぶことで友だちができて「交流人口化」、やがて「移住」まで考えるようになる。自分たちのクリエイティブが人の意識や行動までをアップデートでき、地域に関わる人が増えていくなんて、こんなに手応えがあって事業はないと私自身、感じています」

 冒頭で挙げたテレワークをはじめ、コロナ禍は社会のあらゆる面でパラダイムシフトを起こすことが予測される。地域活性もまた、この状況を起点として新たなステージに進むであろうことを村多氏は希望的観測を口にする。

「私は成城大学経済学部で時折講師させていただいているのですが、今の若い世代は地域への意識がものすごく高い。ネットインフラの普及で、どこに住んでいても中央と遜色のないモノやカルチャーが享受できるのも大きいのでしょう。さらにテレワークの普及で、彼らが社会に出たときには大きな行動変容が起こっているはず。週1、2日の出社でよければ、自然や子育ての環境、自治体サポートなどで住む地域の選択肢は格段に広がりますよね」

 自治体プロモーションはこれからさらに面白くなると目を輝かせる村多氏は、地域法人との連携もより深まるなかで、ますます“使命感”も大きくなってきているという。エンタメ企業としては、ポニーキャニオンが先鞭を切った地域活性化事業だが、「同業他社の皆さんともアライアンスを組みたい。エンタメの力を結集して日本全国を元気にしましょう」と呼びかけている。ウィズコロナ時代、地域のためにエンタメができること、その答えの1つがここにある。
(文・児玉澄子)



(提供:オリコン)
三森すずこが主役を演じた大垣市アニメ「大垣まつりにいこうよ!」
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