【オリコンニュース】
外来種や毛虫に挑む野食ハンター
 かねてより、テレビやYouTubeでも人気の“ゲテモノ食い”だが、茸本朗(たけもと・あきら)さんの提唱する“野食(やしょく)”は一味違う。“野外で採取した食材を普段の食卓に活用すること”をモットーに、未知の食材に果敢に挑んでいる。ときには、お尻から放出してしまったモノで“社会的な死”を覚悟したり、毛虫の毛に苦戦してみたり。昆虫食がブームになりつつある現在だが、茸本さんは“野食”もまた食料の有効活用に繋がり、災害時のサバイバルにも役立つという。これまでのエピソードから、“野食”の意義を語る。

【写真】おそるべし! 茸本さんのお尻を攻撃したワックス魚の切り身

■食べた魚の油がお尻から噴出、「社会的に死んだ」話がネットでバズる

 『野食ハンターの七転八倒日記』(平凡社)の著者・茸本朗さんが、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する“野食”を始めたのは、小さい頃に親に買ってもらったキノコ図鑑がきっかけ。高校まで住んだ地元・福岡の豊富な自然の中で、様々な食材を試す経験を積んできた。社会に出てから始めたブログ『野食ハンマープライス』では、様々な“野食”エピソードを面白おかしく紹介し、人気を得た。

 中でも特にバズったのが、人体では消化されない脂を含んだ魚、通称“ワックス魚”を食べたという記事だ。友人に誘われて行った海釣りで、バラムツ、アブラソコムツという魚を得たという茸本さん。バラムツもアブラソコムツも“ワックス魚”である。

 「どういう魚かは知っていました。お腹で分解されないから、それがお尻から出てくることも…。でも、なんとかなるやろ、トイレで出せばいいだろうと(笑)。それよりもおいしい魚だと聞いていたので、食べることにためらいはなかったです」

 早速、魚をさばいて食べたところ、「刺身は大トロにサラダ油を乗せた感じで、僕は苦手。でも、照り焼きにして食べたらとてもおいしくて。西京焼きも絶品」と大満足の結果となるが、3日後に彼を悲劇が襲う。

 「会社でパソコンに向かっていたら、何の前触れもなく、ぶしゅ~と来て。お尻のあたりがかぷく~っと膨れて温かくなったんです(笑)。これは社会的に死んだ…と思ったら、案の定とんでもない油でズボンを汚していました」。

 便意もないまま噴出するとは、おそるべしワックス魚の油。だが、茸本さんはたまたま置いてあったスペアのズボンで難を脱し、事なきを得た。「外とか電車の中とかじゃなくて、本当に良かった!」と、あらためて胸をなでおろす茸本さんは、「でも、ネットの人たちはみんな、こういう話が大好きなんですよね」と笑う。

■アニサキスやハクビシン、毛虫まで…「身近においしいものがたくさんある」

 ほかにも、クリオネやアニサキス(寄生虫)、ハクビシン、毒キノコ、工事現場の臭いがするナマズ…など、強烈な野食エピソードには興味をそそられる。誰もが苦手とするであろう、毛虫を食べた話もその一つ。

 「食べたのは、桜毛虫と呼ばれるモンクロシャチホコ。よく、学校の桜の木などにもいますね。桜毛虫がおいしいというのは知っていたんですが、昆虫は食べなくてもいいかなという思いがあって、3年前までは手を出していなかったんです。でも、実は昆虫って食べるのにとてもハードルが低くて。毒か毒じゃないかがわかりやすく、採集しやすくて、とてもおいしい。桜毛虫は、毛を取り除こうとして焼いたら臭くて。処理に迷いましたが、ぶつ切りにして炊き込みご飯にしました。見た目は毛虫の混じったご飯ですけど、桜の匂いがご飯に染みてとてもおいしいんですよ」。

 ブログでも公開された、そんな悲喜こもごもなエピソードがいくつも掲載された本書。しかし茸本さんは、「これを読んで、野食を怖いものだと思ってほしくないんです。ゲテモノ好きでやっていると思われるのは嫌。僕が本来伝えたいことは、身近においしいものがたくさんあるってこと。それをぜひわかってほしいんです」と訴える。

 「身近においしいものがたくさんある」。だからこそ、“野食”を通して有効活用するべきだと茸本さんは語る。それを身をもって感じたのは、ミドリガメを食べたときだそうだ。ミドリガメは、正式名称ミシシッピアカミミガメ。ドキュメントバラエティ番組『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京系)ではたびたび外来種として駆除(その後、動物園にて保護)されているが、その様子には疑問を投げかける声も出ている。

 「ミドリガメは、もうすぐ特定外来生物(生態系等に被害を及ぼす、またその可能性があると法律で規定された外来生物)になるかもしれないと言われています。そういった外来種も、保護できない場合ただ捨てるだけなんてもったいないし、ミドリガメの原産地のアメリカでは食べることもあります。駆除するだけでなく、せめておいしく食べて有効活用してほしい。僕の本や記事がきっかけになって、そうなってくれるとうれしいんですけどね」。

 最近では、食糧危機への懸念から、昆虫食ブームも起こっている。「虫はハイカロリーなので、食べないなんてもったいない」とこの流れには賛成する茸本さんだが、注目すべきは何も昆虫だけではないと言う。

 「僕もこれまで、ブログや本で『いつかくる食糧難に向けて』と大きなことを言ってきましたが、そこまで実感はなかったんです。でもここ数年、もっと近いところに意義があると思っていて。日本では特定の種類ばかり消費することで、減ってきている魚がいる。ですが、現在では食べられていない魚でも実は食べられることがわかれば、偏りを減らすことができるんじゃないか。一説によると、釣っても食べられることのない“未利用魚”は、漁獲量全体の1/3にも及ぶそうです。そうやって捨てられる魚の食べ方やおいしさを伝えられれば、需要が増え、いずれ売り物になるかもしれない。これは魚だけでなく、たくさんの日本の生き物にあてはまることなんです」。

■渋谷で採取した野草や虫も食材になる、「災害が起こっても生きていけるという自信に」

 虫や魚だけではない。野草にも大きな需要があるはずだと茸本さんは語る。

 「東日本大震災のときに新聞記者さんから聞いたのですが、避難所生活をした人たちが一番欲しかった食材が生鮮野菜だったと。避難している状況では、たしかにスーパーや八百屋には行けないでしょう。でも、野菜って実は身の回りに埋もれているんです」。

 本書では、渋谷の街で採れた野草や昆虫を使った“渋谷野食御前”なる食事を作ったエピソードがある。まさに、災害の際などに生かせるサバイバル術だ。

 「災害などがあったとき、食べられる野草が近くにある。それを摘んで食べる知識や覚悟があれば、少しは心に余裕が生まれると思います。採取場所としてオススメなのが河川敷。。堤防以外の河川敷では、葦、萱、竹、木以外の野草の採取は法的にも許容されていて、種類も多い。ハマダイコンは根も葉も食べられます。ほかにもノビルやセリ、クレソンなども。カラシナの種を採ってマスタードを作る人もいるぐらいですから。虫では、“渋谷野食御前”にも入っているセミがオススメ。家の明かりに寄ってくるカナブンやコガネムシも、簡単に捕まえられるんじゃないでしょうか」。

 身の回りのおいしいものを発掘し、ときには失敗しながらも果敢に野食に挑み続ける茸本さん。「とにかく怖がらず、トライしてみてほしい。調べるだけでもいい」という彼を、ただの“ゲテモノ食い”と言う人はいないだろう。もちろん、一般人が“野食”する際はしっかりと下調べをして、慎重に行ってほしい。

 「『実はおいしい』という声が広まれば、いま利用されてないものが利用され、特定の生き物に負荷がかからない社会が実現するんじゃないかと信じています。また、災害が多い日本だけに、何かあったときも生きていけるんだという自信にもなるんじゃないでしょうか」。

(文:今 泉)

(提供:オリコン)
お尻から油が噴出するという悲劇を招いた“ワックス魚”(左)と、渋谷で野草を採取する茸本さん
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