Part1 『1995年に生まれた楽曲たち』
Part2 乃木坂46『透明な色』
UP DATE 20150112

Part1 『1995年に生まれた楽曲たち』

今週のライナーノーツ1冊目は、成人の日をお祝いし、新成人の皆さんと共に20年前の1995年に生まれた楽曲たちをライナーノーツしていきます。
 1995年、日本は大きな事件によって何かの終わりと始まりを味わうこととなりました。その辺の詳しいことはニュース番組におまかせするとしまして、文化面に目を向けると『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビシリーズが放映された年で、2015年は奇しくも物語の始まりの年でもあります。そんな近未来のはずだった2015年に於いても、カラオケではオープニング曲の「残酷な天使のテーゼ」が歌われており、いまだに年間チャートの上位にランクインし続けています。歌われ続ける理由は様々ですが、ライナーノーツ的な切り口で解釈すると作詞を担当した及川眠子さんの職業作家を貫くスタンスが大きかったように思えるのです。及川さんは作詞家としてのあり方に「私らしい詞」という言葉は存在しておりません。角度を変えると万人の為の詞であり、歌詞の中にもバイブルという言葉が出てきますが、エヴァンゲリオン自体が「福音書」という意味を持つように、その歌詞は時代に風雪に劣化することなく、誰かの心を捉えて離さないのです。
 『エヴァンゲリオン』を制作したガイナックスが、それ以前にBOOWYの「Marionette」のミュージックビデオを手がけたことは以前この番組でも紹介しましたが、1995年はBOOWYの氷室京介さんと布袋寅泰さんのソロ活動にとっても転機となる1年でした。1994年に渡米した氷室さんは、ベストアルバムを発表後、個人レーベルを設立し、シーンやポピュラリティとは別の場所で独自性を追求するようになりました。一方、世界進出を念頭に置いた “GUITARHYTHM”のベスト盤でプロジェクトにひと区切りをつけた布袋さんは、入れ替わるようにシングル「POISON」をきっかけにシーンやポピュラリティへ挑んでいくようになりました。このようにアプローチのベクトルは真逆とは言え、互いにソロ活動の第1章を閉じ、第2章へ移行していったのが1995年というわけですが、氷室さんの卒業という活動に句読点が打たれようとする2015年も、ふたりにとって大きな変化の1年になるのは間違いないようです。ひとりのリスナーとしては、変化の中に「共演」という二文字を願わずにはいられないのですが…。


 海外に目を向けますと、1995年のイギリスはブリットポップ一色の1年でした。その象徴が、同じ週に互いのニューアルバムからの先行シングルをぶつけてきたブラーとオアシスです。チャート上のバトルは、ロンドンの中産階級出身のブラーと、マンチェスターの労働者階級出身のオアシスという分かり易い構図も手伝い、社会現象にまで発展していきました。結局軍配はブラーに上がったものの、後に発表されたアルバムでは明暗を分け、ブラーはトレードマークでもあったポップ路線から撤退し、オアシスはトレードマークのビートルズ路線を深めていくようになります。そんな騒ぎとは別の場所で、ブリットポップとは一線を画していたレディヘッドは『ザ・ベンズ』を発表し、チャート上ではあまり目立たなかったものの、ミューズやコールドプレイがこのアルバムなしには生まれなかったとも言われているように、後のギター・ロックに計り知れない影響を与えることになります。何をもって成功というのは、人それぞれの価値観ですが、後に日本のフェスでもトリをとるバンドが歴史的に意義のある作品を発表したという意味で、1995年はUKロックにとって特別な年だったようです。
 よく考えてみると、ブリットポップ以降、社会や文化まで巻き込んだ音楽ムーブメントを見ることはなくなったような気がします。日本でもミリオンセラーが最も生まれたのが1995年で、それ以降、国民的ヒットと呼ばれる歌が姿を消すようになりました。1995年という年は、音楽の世界に於いても何かの終わりと始まりの年だったのかもしれません。

お送りしますのは今年成人式を迎えた楽曲より
高橋洋子さんで「残酷な天使のテーゼ」
氷室京介さんで「魂を抱いてくれ」
布袋寅泰さんで「POISON」
ブラーで「カントリー・ハウス」
オアシスで「ロール・ウィズ・イット」
レディオヘッドで「フェイク・プラスティック・トゥリー」です。




Part2 乃木坂46『透明な色』

今週のライナーノーツ2冊目は乃木坂46の1stアルバム『透明な色』です。
 この2月でデビュー3周年を迎える乃木坂46にとって初のアルバムは、CDの形態によりますが、全10枚のシングルの表題曲に、ファン投票によって選ばれたカップリング曲とアルバム用の新曲を加えた——グループの全歴史が俯瞰できる内容となっております。
 群馬県出身の白石麻衣さんが参加されているという縁もあり、過去にインタビューや音楽性について何度かライナーノーツを紹介してきましたので、今回はアルバム用の新曲から乃木坂46の今と未来を見ていければと思っております。
 白石麻衣さんが参加しているユニット曲「革命の馬」の歌詞の舞台は渋谷です。実は、2ndシングル「おいでシャンプー」のカップリング曲「偶然を言い訳にして」でも、白石さんは「革命の馬」にも参加している高山一実さん、橋本奈々未さん、松村沙友理さんと共に渋谷を舞台にした楽曲を歌っていました。さらに、4thシングル「制服のマネキン」のカップリング曲「渋谷ブルース」でも、白石さんは高山さんとのユニットで渋谷を歌い上げていました。そんな渋谷三部作とも言える楽曲を時系列順に並べてみると、「偶然を言い訳にして」では昼間の渋谷での出会いというキラキラした光の部分が描かれ、「渋谷ブルース」では夜の渋谷を漂流し疲れきった少女の孤独という陰の部分が描かれ、今回の「革命の馬」では孤独な少女たちに「日常に革命を起こせ」と蜂起を促していきます。渋谷という街は、どこか誘蛾灯に似た危険な魅力をはらんでいます。街のキラキラした輝きに少女たちは何かしらの憧れをもって集まってくるのですが、その心はあくまでも孤独で、結果的に光の前で折れた心は夜の闇に沈んでいきます。それでも学校にも家にも居場所がない少女たちは、渋谷の作られた光の中に居場所を求め、度々ニュースでも取り上げられるように難民化してしまうのです。そんな少女のたちの心の軌跡を描きながら、白石さんが参加するユニットは三部作の最後に「思っているだけでは変われない」、「生きることとは行動だ」と、街の向こう側にある本当の光へと少女たちを誘っていきます。
 こうして3年を費やして完結した三部作からは大河的なドラマが見えてくるのですが、当初ライバルとして設定されていたAKB48よりも今や多くの女性ファンを持つ乃木坂46だからこそ、前向きなメッセージは少女たちの背中を押すような気がするのです。特に雑誌の専属モデルも務める白石さんは、ファッション、メイク、ヘアスタイルなども含めた少女たちの憧れの対象で、「革命の馬」での白石さんは、ある意味、少女たちにとってのジャンヌダルクのような存在なのではないでしょうか。
 そんな白石さんの成長が乃木坂46の進化の大きな原動力となっているのは間違いなのですが、「きれいなおねえさん」化する乃木坂46のアイドルとしての未来は、やはり10代のメンバーの活躍なくしてはありえません。その象徴が、10枚目のシングル「何度目の青空か?」で初のセンターを務めた生田絵梨花でしょう。今回のアルバムでもソロ曲の「あなたのために弾きたい」を担当し、生田さんは、日本クラシック音楽コンクールでも入賞を果たした腕前を持つピアノの弾き語りで堂々した歌唱を披露しています。「あなたのために弾きたい」の歌詞は、生田さんのピアノの弾く理由の変遷を描いているようにも読め、コンクールや音大受験のためでなく、今は目の前の一人の“あなた”に聴いてもらえることがしあわせと感じている主人公がそこには存在しています。それをアイドルとしての覚悟と感じるのは深読みなのかもしれませんが、確実に覚醒しつつある生田さんを始めとする10代メンバーと、それを支える白石さんたちの大人メンバーとのバランスの上で、乃木坂46は昨年叶えられなかった夢を2015年につかみ取りに行くはずです。
 ちなみにデビュー間もない頃の白石さんのインタビューと、2012年を総括した生田さんのコメントは番組ホームページで読むことができますので、放送日の2012年5月14日と2012年12月31日を是非クリックしてみてください。

お送りしますのはアルバム『透明な色』より
「革命の馬」
「僕がいる場所」
「謎の落書き」
「あなたのために弾きたい」です。